Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

文芸同人「UMA-SHIKA」に参加します/予告篇


id:Geheimagent(「石版!」)主宰の文芸同人「UMA-SHIKA」に参加します(http://d.hatena.ne.jp/Geheimagent/20090113/p1)。文学フリマ(2009年5月10日(日)大田区産業プラザPiO)向け創刊号には短編小説を寄稿する予定です。告知だけだと寂しいので予告編をふたつ載せておきます。

・「バイブ」

 いつやむとも知れない酸性雨の幕と神経を苛立たせるために作られたとしか思えないネオンの点滅のなかで俺が探し続けているのはバイブレーター。俺はこの街で豚と呼ばれている。由来は知らない。俺を初めて豚と呼んだ重度のジャンキー兼ロリコン兼ハッカーは、豚の由来を俺に教えず胸に抱えたまま魚のエサになった。「あんたは痩せていて「いかにも」な日本人だけどさ。豚なんだよ。でっぷり肥えた豚」。奴の一ドルの価値もない最期の言葉だ。俺の子供の頃のアイドル、カービー・パケットを想わせるずんぐりむっくりしたジャンキー・ハッカーは眼球をくり抜かれ、手足の全ての指を先端で割かれ、尿道からワサビを塗った針金を刺された挙句に、四十フィートコンテナに潰され、マクドナルドハンバーガーよりも薄くなったところを、トンカツの背後にそびえ立つキャベツの千切りのようにスライスされてゴールデンゲートブリッジから海に撒かれた。まあこの街で、これくらいのことは日常茶飯事でいつまでも気に止める奴はいない。都市を葉脈のように走り抜けるバスを逃したようなものだ。すぐに次が来る。それが俺の住む町、ロスアンゼルス


 夏で45になる俺はダウンタウンでうどん屋をやっている。バラク・オバマの黒人優先政策と、続くシュワルツェネッガーの健全肉体政策によってアメリカの経済は奇跡的なV字回復を果たしたが、その結果として俺たち日本人はオフィス、工場から下町のスラムへと追いやられた。俺にはラーメンとの違いもわからないような黒人を相手にうどんを茹でるしかなかった。執拗にナルトを要求する客にパンチを喰らわせたハードな夜も数えられないほどだ。ターミネーターは健全なアメリカを謳い、全米から全てのアダルト産業を滅ぼした。経済成長で懐の潤った大多数の「良識的な」民衆はターミネーターを支持し、ポルノ女優たちやダーク・ディグラーの末裔たちは地下へ潜った者を除いてアジアやヨーロッパへ散り散りに去っていった。さらば愛しきディープスロート。日の当たる街で黒人とマッチョ白人が優遇され、性欲を持て余した若者でスラムは溢れた。世界中の資本が集中したアメリカは環境破壊が進み、ロスは酸性雨が降り続ける暗い街へと姿を変えた。俺の愛した西海岸の青い空は俺の記憶とハードディスクの記録のなかにしか存在しない。


 ショッピングモールで買い物をしていた俺の妻マリコが「スティッキー・フィンガーズ」を名乗るクソガキどもに拉致されたのは春先のことだ。俺は奴らのアジトを突き止め、へへ、なんだ日本人のおっさん一人で俺たちをやれると思ったのかよ的な顔をした三人のガキの足に弾丸を撃ち込み手足を縛って動けなくし、プリンスのリトル・レッド・コルベッツを口笛で吹きながら、三人の頭からガソリンをかけ、奴らの足下近くの床に蝋燭を立てて火をつけ、周りに猫大好きキャットフードの中身をあけた。「ヘルプ!」「許してください」「わーマジ死にたくねーし!」俺の背中の向こうでクソガキどもの声が響く。「野良猫ちゃんたちの食事マナーに期待することだな」俺はキャデラックに積んできた野良猫たちを奴らのアジトに放ち気を失った妻を抱えてその場をあとにした。妻は目覚めなかった。(つづく)

・「さよなら人類」

世界を滅ぼすことなんて簡単だった。わたしにとってはノートのコピーをとり、その分厚いのをホチキスでぱちーんととじて即席の参考書をつくりあげるほうがよほど困難だった。でも世界を滅ぼしてしまった今、教室も期末テストも担任もクラスメイトもまとめて消えてしまったのだから、いや、消してしまったのだからわたしの右手にあるバッグの中身が世界の、人間の、地球上に存在していた有機物、無機物、知識、文化あらゆるすべてのものの形見だ。そう。実際、世界なんて滅ぼしてしまえばこんなものなんだ。60億の悲鳴もわたしには届かない。わたしはそれをすこしだけ寂しく思う。家に帰り、編み上げのペタンコベロアブーツを脱ぎ、たたーっと走って冷蔵庫をあけて、取っておいたはずの雪印雪見だいふくがなかったときと同レベルの寂しさ。だからわたしは世界を3分だけ滅ぼし、ぱぱーっと元に戻した。それにしても、だ。アイスラッガーを喰らったのは迂闊だった。まさか、ウルトラセブンが実体化してこのわたしに攻撃をしかけ、ぷりぷりと雨をはじいちゃうわたしの超プリティ太ももにちゅぱーんと漢数字「一」を書くなんて。ウルトラセブンアイスラッガー。むむむー。人類の間際の想いが結集してウルトラセブンという形になったとでもいうわけ?そんな仕業ができるのになぜ人類は争うのだろう?わたしにはよくわからない。何もない空間に宇宙が生まれ太陽系が生まれ地球が生まれ世界が三分前の姿に戻る。花が散ったあとの青い桜並木をわたしは歩いている。「おはよう。あーもう今日の現国やばいんだけどー」なんて、わたしの左隣で騒いでいる近野成美の髪は寝癖で跳ね上がっていてスキーのジャンプ台みたい。「なにその髪ー」「いやもう寝坊しちゃって直す暇とかマジないし。期末が終わったら直すよ」「女としてどうかと思うよそれー」まだ朝八時半なのに初夏の日差しは強く、本当にウザい。「現代文得意だからなんとかなると思うんだよねー」という近野成美が悪戦苦闘し選択問題で鉛筆を転がしている姿を斜め後ろの席から見てしまっている私は何も言わない。でもね、成美、わたしたちのテストなんて意味ないんだよ。人類に明日は来ないんだから。人類が救済してくれると信じている神様なんていないってもうすぐ知るんだから。(つづく)


つづきは「UMA-SHIKA」創刊号で!



それでは皆さん文学フリマでお会いしましょう!絶好調であるっ!