Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

続・私の異常なお見合い または私は如何にして恥も外聞も尊厳も捨てインポを告白するに至ったか


 スクリーンの深キョンドロンジョを舐めまわすように眺め、満喫し、さあ帰ろうとビールの残りを飲み干して、ふと隣を見ると先日僕とお見合いをした女性が座っていて驚いた。そうだそうだ。酒を飲んで深キョンのコスプレに没頭するあまり忘れてた。僕は二つ以上のことを頭に留められない。そして彼女は戦国時代好き西軍派、趣味コスプレ。


 お見合い以来彼女からメールが送られてくるようになった。毎晩ほぼ午後十時に送られてくる。大半は「土手に花が咲いてましたぁー梵天丸もかくありたい(添付/花のついていない雑草)」「毘沙門天も攻め落とせなかった夜の小田原城の勇姿ですぅ(添付画像/一面ニ百万画素の闇)」というような嫌がらせメールで、最初は笑い飛ばしていたのだけれど、次第に精神が圧迫され、上下違うスーツを着てツートンカラー出勤をする、駅の便所で外人並みのウンコをしたあとで流すのを忘れ知らないオッサンに叱られる、という具合で生活に支障が出始めた。この因果を断ち切らないと破綻すると気付いた僕は、ハッ!と声をあげ頬をぴしゃりと叩き気合を入れ、日本酒を飲んで勢いをつけ飛び出したのだった。


 缶ビールを飲みながら待ち合わせの餃子の王将に出向き、餃子を食べ、生ビールを飲みながら、目を合わせずに「今日は何します?ぼくはとくにやりたいこともないのですけど。あーそうだコスプレ好きなんですよね。じゃそういう映画でもみて適当に解散しましょう」と一気に捲し立て「ヤッターマン」を観ることになったのだった。


 で、映画が終わると当然のように会話もないので仕方なく居酒屋へ。とりあえずビール。「今まで訊かなかったのですがコスプレって何やってたんすか?」と僕が社交辞令で尋ねると「ナコルルです」と彼女。「サムライスピリッツですか?」「侍。すなわち武士、もののふですう」はあ。「他にはどういうキャラをやるのですか?」「知りたいですか?」「いえ、別に。本当は興味ありません」「知りたいと言っても教えませんけどぅ」。疲れる。大ジョッキを追加。


 僕は生ビールを飲みながらこの人とは縁を切らないと将来大きな災いに巻き込まれると本能で感じた。後の憂いは絶たなければいけない。それでいて大人のいやらしさだけは一級品の僕は縁を断って悪人にもなりたくない。ポクチーン。アルコールの力で名案が閃く。簡単だ。断るもなにもない。嫌われればいいのだ。女性に嫌われるのは僕の十八番だ。「今日のドロンジョは素晴らしかったですね。腰まわりとか胸とかムチムチでベリーキュートで。レロレロしたくなりますよ」と切り出した。「いやらしいですねえー」「僕はいやらしいことしか考えていないのです。大人しく見えますが僕はこう見えて真夜中のベッドじゃ暴君なのです。金のしゃちほことかやりたいですね」「暴君…戦国武将キター!しゃちほこ!尾張国!信長キター!」逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ。とりあえず大ジョッキ追加。もっと幻滅させなければいけない。


 「そのうえ僕はたたないのです」「たたないのですか?」「ええ、まったく。ピクリとも」「凄ーい」はあ?「インポのなにが凄いのですか?」「だって謙信みたいじゃないですか」「謙信て僕と同じインポなのですか?」「謙信、実の息子いないじゃないですか。わたしが書いた同人じゃインポという設定で、義理の息子二人をホモらせて、それを眺めてテンションをあげてから合戦というキャラでした。しかも無敵。萌えー」「えー!なにそれー」「それにキミと謙信はアル中なところも一緒」「キミというのは僕ですか」「キミがキミです…」「ああ」「しかも上杉家は西軍!」「そうですか…」僕は天井を仰いだ。居酒屋の蛍光灯には虫の死骸がびっしりと張り付いていた。


 僕はそのあとビールを浴びるほど飲んで、彼女をタクシーにぶちこんでから帰った。彼女は母親の友人の娘ということもあって、僕の言動、情報は筒抜け。翌日、母親からメールが来て僕の何分の一かが壊死した。「インポって本当なの?○○ちゃんのお母さんから聞いたわよ」。そして今夜も午後十時に彼女から大河ドラマ「天地人」の感想メールが送られてきて、僕の精神はまた一歩追い詰められた。「次回、上杉家内乱!楽しみですうー」知るか!