Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

夏の空に、消えた。


 仕事をしているフリに終始した一日だった。慣れない演技に疲れて、ビルの共用部分にある給湯室にいくと、総務のマヤちゃんがいた。マヤちゃんは、まっすぐな明るい茶色の髪をした、まだどこか子供っぽい感じのする可愛らしい子だ。猛暑だけにもうしょうがないネと(笑いの神が降臨したとしか思えない)声を掛けると、ドライアイスの処理に困っているという。


 だったらさ、こういうふうにやろうよ、と洗面器のなかにドライアイスを置いて洗剤を入れた。ブクブクと泡が洗面器から溢れ出す。「あー!これ、時効警察でやってたー」「そう、それ。こんなときじゃないとさ出来ないから遊んでしまおうヨ」洗剤を足してさらに泡がでてくるところを眺めたり、ブクブクとしゃぼん玉より硬い感じのする泡の表面を触ったりして遊んだ。


 すると、泡まみれの僕らの指同士が触れた。最初は偶然に触れた、はずだ。そのうち、マヤちゃんが「指が細いですね、ピアノ弾くって本当ですか」といいながら僕の指を撫でてきた。彼女の突然の行動に、僕は意味がわからなくて、唖然としてしまった。彼女の意図を推し量れず恐くなってきて、僕は、元大関小錦が土俵に上がったときの、あの尻と足の境目の微妙な部分を頭に思い描いて、自分を護った。何を考えているのかわからない。明日、出社するなり、給湯室セクハラで訴えられて、警察に突き出されたりしないだろうか。僕は無実だ。だが証拠がない。ドライアイスは消えてしまった。