Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

茜射す 乳照らされど


 予期せぬ出来事への対処は難しいものだ。週末は、仕事の打ち上げで深夜まで飲んでいた。場所は掘り炬燵式のテーブルの、よくある居酒屋。対面は先日入社したばかりの女性。薄い青色のYシャツが、僕の方に向かってくるように盛り上がった大きな胸の持ち主だ。やれやれといつものように、特に高揚することもなく、当たり前のように僕は凝視を開始した。なぜ?理由を問われると、僕はいつも、少し抑えたトーンでこう答えるようにしている。Because it is there.


 百戦錬磨の僕なので、ただオッパイを眺めるようなことはしない。察知されてしまうと、腕を組んで隠されたり、最悪の場合、席を外されてしまう可能性がある。そんなリスクを負うようなことはしない。それは素人の仕事だ(オッパイを眺める−そんな高貴な行為には、崇高な思想と技術が必要だ)。テーブルを挟んで正面からオッパイを眺めると、僕の座高の高さもあって、見下ろすような格好になり女性に察知されやすい。目線が女性の目よりも下になってしまうのも不自然だ。


 だから僕は、座布団の上で腰を前にずらして低い姿勢を取った。小津安二郎的ローアングルからオッパイを下から眺めつつ女性の顔を捉える。オッパイと顔が同一フレームに収まっている状態。相手からみれば、僕は少しだらしない格好をとってリラックスしつつ、真剣な眼差しで話を聞いているようにしかみえないはずだ。だらしのない姿勢も酒の席だから自然。その上、見上げるような可愛い眼差しは、母性本能をくすぐる効果も期待できる。「ヨシフミさんは女ゴコロがまるでわかってない」とかなんとか言っていたような気がするけれど、すべて上の空。それどころじゃあないんだ。Because it is there.


 ただ、その女性のオッパイが大きすぎて、その圧力で、シャツのボタンとボタンの間が開いてしまっているのを発見したときは、対処に困った。クレバスのように開いた隙間。隙間のなかは暗くて見えない。暗闇。オッパイはそこにある。暗闇。その暗闇は、僕を飲み込もうとする化け物に思えた。もし、飲み込まれてしまったら、取調室で刑事さんからカツ丼を勧められることになるんだろうな、と思いつつ、暗闇に光が差し込む数パーセントの可能性にかけて、ビールを胃袋に流し続けた。話はすべて上の空。Because it is there.