Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

オカンとマリオと、時々、僕


 母の行動は、僕の予想を軽く超える。そして、僕の言うことをまったく信用しない。母は、初代スーパーマリオのクリアーを生涯の目標として、日々ゲームボーイと格闘している。そして、僕が、何度も、各ワールドの最後に鎮座するクッパに踏みつけ攻撃は効かない、と言ってるにもにかかわらず、無謀にもクッパに踏みつけ攻撃を敢行しては残機を減らしていく。


 最近は、クッパに対面すると僕を呼び出して、攻略をさせる。そして僕が、無事にクッパを溶岩に突き落とすと、「ハイ、もう結構」「用済んだ」と言って、僕の手からゲームボーイを取り上げる。もう少し、僕を一個の生命体として扱って欲しいと思うのは、贅沢な願いなのだろう。


 そんな母が、ピアノの練習をしている僕の目の前に、庭先に成ったブルーベリーの実をぶら下げて、「食べる?」と尋ねてきた。ガサツな母が実を洗っていないのを、深い洞察で見抜いていたので(しかも、ブルーベリーのあるところは野良猫の通り道になっている)、「いらない」と言おうとして口を開けるや否や、僕の口に、それはまるで生ゴミの日にゴミ収集場所にゴミ袋を投げるように、ポイっと、無造作にブルーベリーの実を投げ込んできた。


 母にしてみれば、僕のマウスとごみ収集場所は等価値なのだ。一応、確認のために「これ、洗ってあるよね?」尋ねたら、「蟻が調味料〜♪」と奇妙な節を付けて返してマリオをやり始めた。マリオを始めると僕の話はまったく聞かなくなるので、仕方なく、僕は憤りを指から鍵盤に伝えてソナタを弾いた。そのせいで、ピアニッシモの箇所が、いつものように弾けなかった。


 その後、非人間的にクッパ攻略をやらされるのはかなわないので、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を観にいった。僕の望むエヴァがスクリーンにあった。技術的な問題をのぞいて、10年前にこれを劇場版として公開出来なかったものなのか、とも思ったけれど。ここのところ寝不足が続いているので居眠りするのが心配だったけれど、「冒頭〜対サキエル戦〜シンジがミサトの部屋にやってくるまで」のテンポが素晴らしすぎて、眠気がすっ飛んだ。


 新たに追加されたシーンはもちろんのこと、シンジがエヴァに搭乗するたびの動機付けが強調された脚本になっていたり、TV版ではただの四角野郎だったラミエルが動きに動いて、ラストボスとして君臨していたり、ヤシマ作戦のときに最近お目にかかる機会の少なくなったディーゼル機関車が大量に搭乗するカットがあったり(長くなるので割愛)と、僕にとっては満足のいく作りになっていた。


 それにしても、第三新東京市のモデルとされる地域の傍らに生息しているので、聞きなれた地名や見慣れた風景が登場するだけで嬉々としてしまう僕は、いい歳してどうかしてると我ながら思う。劇中のシンジの言葉でいえば、僕に守る価値なんてないよ。母いわく、僕は「失敗作」。