Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ヨシフミ、手をどけて


 僕の会社は食品を扱っているので、月に一度、全従業員に検便を実施している。採取した糞便を業者に送付して検査をする、というやり方だ。今月から検便の方法が変更になった。ミーティングで、担当の女性から「今月から方法が変わります。詳しくはマニュアルを見てください」とアナウンスされたはいいが、当のマニュアルを見ても「糞便を適量、スティックの先(穴が開いている)に採取し、云々」としか記載されていない。簡潔に書かれてはいるが、採取の方法が問題だ。そして担当の彼女は気の強いナイスバディ。


 元々、検便のやり方には疑問があった。銛で魚を狙うかの如く、水洗便所の中に浮いている糞便を、スティックを突き刺して採取するのか、糞便を適量ティッシュに取り、そこから採取するのか…。休憩室で悩んでいた僕に、ベテラン社員の熊さんなどは「アハハ、悩むことない。和式便所に糞便を落とし、そこで採取すればいい」と事も無げにいう。いったいどれが正解で、効率よく、衛生的な方法なのだろう。悩みが尽きない。


 だから僕は、彼女が僕の横をすり抜ける際、手を壁について、行く手を塞ぎ、尋ねた。「検便の採取ってどうやればいいの?」「やり方は決まっていないので各自で考えてよ」と彼女は当たり障りのない答えをした。彼女の答えを予測していた僕は、更に続けた。「わからないから聞いているんだよ、僕は。必死なんだ」「と言われても…」彼女は困惑を表面に出した。「僕はね、一般論が知りたいんじゃない。キミがどうやって糞便を採取しているのか。それが知りたい。もしかしたらキミは、スティックを便意で溢れかえる尻の穴に直接突き刺して採取しているのかもしれない。たとえそうだとしても僕は幻滅なんてしない。僕は、僕は、キミのこころが知りたいんだ」「手をどけて」彼女は僕の問いに答えず、ただそう言って立ち去った。彼女の残り香が僕を包んだ。検便の真相はいまだ闇の中だ。