Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

俺は側室をつくるぞジョジョー!!


 呆けているうちにひと月あまりが過ぎてしまった。我に返り、自室の机の上をみると郵便物が山のようになっていた。紙の山は、過ぎてしまった時間を「ほらご覧、これだけの時間がキミの頭の上を通り過ぎてしまったのだよ」と頼んでもいないのにあらためて突きつけてくれる。


 僕は、頂上から切り崩すように、ひとつひとつの郵便物を手に取り、目を通していった。山の大半は年末商戦向けの派手な色をしたフォントと煽動的な数字ばかりのDM、残りは請求書や引落し明細だった。それらはもう過ぎてしまった時間の遺物といえた。僕宛ての手紙はひとつもなかった。ただの一通も。


 そのうち、紙の山から一枚の年賀状がでてきた。見慣れた絵柄。当たり前だ。僕が年が明けたあとに慌てて出した年賀状だからだ。一年に一度しか働く機会を与えられない不憫なプリンターから一枚一枚吐き出されるのを眺めていたのだから、その絵柄を見間違えるはずもない。


 


 裏をみると「あて所に尋ねあたりません RETURN UNKNOWN」というスタンプが押されていた。宛て先は総務のマヤちゃんだった。おかしい。本人から住所の書かれたメモをもらったはずだ。手帳に挟んだままになっていたメモと、年賀状に書かれた住所を照らし合わしてみる。メモに書かれた丸文字の住所が年賀状にも書かれているのを確認してから、僕はコートのポケットに年賀状を突っ込んで出勤した。


 夕方。いつものように定刻できっちりと仕事を終えたマヤちゃんを追いかけてエレベーターに飛び乗った。上のフロアから降りてくる人たちと僕らでエレベーターは溢れかえった。マヤちゃんの顔が僕の顔のすぐ下にあった。その距離20センチ。


 彼女は少し下から僕の顔を見上げるような姿勢をとっていた。その瞳に僕は映っていなかった。彼女は僕の身体の向こうにある何かを見つめているようにみえた。たぶん振り返っても僕には見ることのできない何かを。1階で停まったエレベーターを降りて、年賀状の住所の書かれた部分を指差して声をかける。


「住所これで間違ってないよね?」


「あれ、これ私の住所です。なんで知っているんですか?どこで調べたの?ストーカー?」


 頭痛と混乱と目眩が僕を襲ったけれど、百戦錬磨の僕はこらえてしまう。若者に理解のある大人って表現はこの瞬間の僕のためにあるようなものだ。


「遅くなったけど、これ年賀状」動揺を隠すように時期はずれの年賀状を胸の前に差し出した。


「遅いよ…」「今更?」「年賀状もまともに出せないの?」「ヨシフミさんはオッパイしか興味ないのかと思った」どういう反応をするか見物だったけれど、マヤちゃんの返答は僕の予想を軽く超えていた。



「ご苦労!大儀であった。ヨシフミさんを征夷大将軍に任命する!」


 かくして、平成20年2月13日。フミコフミオ(幼名ヨシフミ)は幕府を立ち上げ、その強力な中央集権体制をもって長きにわたり乳房のための治世をすることになる。のちのイエローキャブである。後世、一部の歴史家よりそのオッパイ偏重主義から「乳将軍」と揶揄されることになるが、それはまた、別の話である…。