Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

僕のカイシャ、ダメ。ゼッタイ。

 得意先での打ち合わせの後、先方の担当者と少し談笑した。仕事以外の話題が主の気楽な会話。仕事が順調にいっているときってこんなものだ。別れ際に彼は言った。「御社の部長、もう連れてこなくていいですよ」ハイ?返事の声が上ずった。


 「顔が暗いし、あの目がね。睨まれてるみたいで恐いんですよ。それに話の意味まるでわからないから」スミマセン。申し訳なさそうな顔をしておいた。営業としての心得を僕が教授しないといけないななんて思いながら。「それとご本人は意識されてないと思うのですが『ナルヘソ』って言われると馬鹿にされているみたいで正直不快です。今後はフミコさんだけでいいですよ」…了解しました。そう答えて会社へ帰った。仕事自体は順調。それだけが救いだった。


 午後五時。月次定例営業会議が行われた。会議というだけで憂鬱な気分になる。いつものとおりどうでもいい会話が展開した。僕はいつものとおりウンウンと頷きながら聞き流していた。会議の終わりに、先ほどの先方との折衝の状況を報告した。「…という具合で予定通りに進行中です」仕事が快調だと自然と笑顔になるってものだ。しかし、部長の目は笑ってなかった。「なるへそ。だが、お前の顔には殺気がないぞ」


 部長は続けた。「『予定は未定なんだ』、孔明か何かが言ってたろ確か。五十六か?まあ誰でもいい。そんな目をしているようじゃ、この案件を任せられないな…俺なら一発だ。なんなら俺が行って一発で話を決めてやろうか?」視界が歪んだ。なんだこの展開。誰か助けて。


 「ボヤボヤするな。聞いているのか。お前には殺気がないんだよ。客を斬るっていうか射抜く覇気っていうヤツが。よし決めた。この案件は俺がケリをつけてやる。今度は俺も同行する。わかったな。俺がバシッと決めて木っ端微塵にしてやる。本物の営業マンの姿を見せてやる。助け舟を出してやるんだ。嬉しいか。そりゃあ嬉しいよな。返事がないぞ?」僕はやっとの思いで答えた。「…よしなに」


 これでこの案件のオシャカと僕の出入り禁止は決定的だ。今までに費やした僕のプライスレスな労力、時間もろとも、部長の仰るとおり木っ端微塵だ。もうダメ、ゼッタイ。それにしても不思議だ。月次定例営業会議のクセに今月になって三回も行われている。


 いつもと同じように何も決まらず会議は終わった。ひとりになった会議室で、ホワイトボードに仰々しく赤ペンで書かれた「月次定例営業会議」の文字を消した。そこで僕は僅かな希望を見つけた。仰々しく書かれた文字の脇ににひっそりと「3」の文字があった。小さく、本当に小さく、ひっそりと書かれていたんだ。味方になってくれるかもしれない人間が一人、いる。