Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

伝説のサーファーになるたったひとつの冴えたやり方

 高校の頃からサーフボードを所持している。サーフボードはどうやら興味を惹くアイテムらしい。好奇の眼で見られることが多い。特に東京の大学に通っているとき、友人やバイトの先輩にサーフィンの話をすると驚かれたものだ。本当にやるの?って感じで。そのたびに「僕の街はサーファーのメッカなのでサーフボードは日常の一部になんだ。僕の街で波に乗るのは、東京でレストランに行くのと同じ感覚だよ」と言う。僕の板は従兄弟が海のないところに引越す際のドタバタに乗じてもらったものだ。今でも何もすることのない休日はサーフボードを担いで近くの海へと足を運ぶ。


 僕は地元ではちょっと名の知れたサーファーだ。海岸にサーフボードを置いてビールを少し飲み、海を眺める。僕は待ち続ける。中途半端なサイズの波じゃなくてビッグウエーブを待ち続ける。とびきりの大波を待ち続ける。ビールをちびちびと飲みながら。波間に浮かんでいる連中を眺める。ただ待つ。ひたすら待ち続ける。時折、女性からの目線に手を振って応じたりしながら。


 なかなか海に入ろうとしない僕はやがて伝説的な存在になるだろう。いつ僕が腰を上げ、波と対峙するのか。熱気と期待が僕の周辺で高まっていく。マスコミが目をつけるだろう。テレビクルーが詰め掛け若者たちにインタビューをする。僕についてのインタビュー。彼らは答える。「彼は伝説だ。いや、伝説が彼なんだ」「平成6年の台風9号のとき一度だけ高さ69mの波に向かっていく姿を見たという人が友達の友達の弟だ」「彼は8人目のビートルズだ」「彼はサーファーじゅないサーフェストだ」「彼の家には波を起こせるプールがあるらしい」「彼はサーフィンそのものだ」…


 今日もサーフボードを傍らに置いて海を眺めた。ビールを飲みながら。女性に目線を送りながら。僕はサーフボードを持っている。だが、この板がショートなのかロングなのか僕は知らない。どちらの側が表なのかさえわからない。波に乗ることはおろか海に入ったこともない。だけど僕は伝説になる。乗らないことで。レジェンドになるまでひたすら砂浜で波を待ち続ける。大波が来たら?板を捨てて真っ先に逃げるよ。