Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

あなたとは違うんです

 「あなたとは違うんです」とは中華料理屋の壁のちょっと高いところに置かれたナショナル製14型テレビから飛び出してきたメガネをかけたちょっと偉そうなハゲの言葉で、僕はカウンター席で醤油ラーメンをズズッズーとすすりながらそれを聞いて「うわっ人間くせえオッサンだなあ」という感想しか出てこなかったのだけれど、後ろのテーブルでさっきまでパチンコ大負け選手権をしていたオッサンたちが一斉にハゲを罵りだしたのはなんだか可笑しかった。政治家としては、昔の全日本プロレスに喩えると打ち合わせにない投げっ放しジャーマンを喰らわせるようなもので、おいおい昨日のマットと違うことされても困るんだけど、聞いてないよって感じでお世辞にもほめられたものではないけれど、オッサンたちがパチンコでウン万円負けたこととはまったく別の次元の話だ。「最近パチンコでねーウゲッ」「今月いくらつぎこんでると思うんだーオエー」「馬もこねーウェ」オッサンたちの魂のシャウトのなか、ハゲの代わりにシュプレヒコールを受けるハメになった赤いナショナルに同情しつつ、僕は「オッサンそれ違うだろ」と突っ込みを入れた。それから僕は奥歯に挟まった葱を楊枝で引っ掻きだしているときに思い出した。僕も同じ言葉を言われたことがある。「あなたとは違うんです」


 大学のとき、ゼミの後輩だかサークルの後輩だか思い出せないくらいのさほど親しくもない人が掲示板の前で深いため息をついていたので希望と情熱と体力、そしてなによりも時間が有り余っていた僕は声をかけた。「なんだか悩んでいるみたいだね」「わかりますか?」「わかるさ。僕は君よりも年長だし髪も長いからね。悩んでいるかどうかはその人の影の濃さでわかるよ」「そうなんですか。影ですか」後輩は悩みを語った。自分があたかも悲劇の主人公であるかのように大いに苦悩を語った。悲喜劇だ。悩みを聞き終わったあと僕には些細なことにしか思えなかったので「でっかいオッパイでも触ればすっきりするんじゃないか」とか言って適当に切り上げたときの後輩の言葉が、「あなたとは違うんです」だった。彼に対する気遣いや配慮が欠けていたと思う。僕は今になって謝りたい気持ちでオッパイになった。いやオッパイじゃなくていっぱいだ。でも思う。今、彼が僕の隣のカウンター席で苦悩混じりのため息をついていたら何が言えるだろう。どう言えるだろう。今の僕に。十数年の経験を経た僕に。適切な助言をオッパイ送れるだろうか。無理だな。僕はちっとも変わってないから。生きるだけでオッパイオッパイだ。今を精オッパイ生きるだけだ。人生経験をオッパイ積んでいるはずなのにこれだ。身体も連夜の酒で壊れかかっいる。人生をごまかすために飲んで飲んで揉まれて揉んで。ああそうだ。僕は壊れかかっている。ブラジャイルなんだ。いやいやいやいやオッパイじゃなくていっぱいだった。ごめん。ちっとも変われてなくてごめん。生まれ変わりたい。生まれ変わったら私はパイになりたい。本当にごめん。アイムソーリ。