Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

悩殺ブルマーにようこそ!


 もし人生が一本の道ではなく、何千、何億、それ以上の膨大な選択と分岐の連続あるいは行動の蓄積から成るものだとしても、今日僕がキャバクラに行くのは不可避なポイントのひとつだったと思う。どのルートを辿っていたとしても。「悩殺ブルマーデー」。そんなスペシャルイベントの存在を知ってしまった瞬間から僕はブルマーの奴隷になった。僕の行動のすべてが悩殺ブルマーに向かって動き始めた。僕がよく行くキャバクラはキャンパスパブという形態で、女の子が女子高の制服を着て接客をする。この秋のイチオシのスーパーイベント。それが悩殺ブルマーデー。


 僕は「マーボー豆腐」なのか「マーボ豆腐」なのかと同じレベルで、「ブルマー」なのか「ブルマ」なのか、その正式な名称を知らないし、それをわざわざ調べるほどブルマ(ー)に対する思い入れもない。ただ、通常、高校の制服を着て接客する制服ガールたちの、ブルマーガールへの変身を見たいという欲求に僕はあっさり負けた。20年前に僕がホイチョイのスタッフであったなら取材という名目で遊びに行き、こんなコピーと領収書を企画会議に出して上司たちに怒鳴られていただろう。「彼女がブルマーに着替えたら?」


 そもそもキャバクラっていうのはブルマー抜きでも素晴らしいところだ。たとえば休日の百貨店、僕が眺めるだけで声を掛けることも出来ずに終わってしまった「23区」の巨大な菅野美穂のなかにいたあのコみたいな女の子が次々とカレイドスコープのように目まぐるしく交代して話しかけてくれるし、たとえば通勤電車、僕の両隣が空いていても前に立っている女の子たちは吊り革から手を離そうともしないことが多いけれどキャバクラなら何かパズルゲームのように僕の両隣はしっかりと埋まって僕を悲しませたりはしないし、たとえばトイレで用を済ませたあと、手を念入りに洗っても会社の女の子は「本当に手を洗っているんですか」心ない言葉を僕に投げかけたりするけれどキャバクラの女の子はスマイルとオシボリで優しく迎えてくれる。不思議なことにキャバクラの女の子は全員が僕のアドレスや携帯番号を知りたがって僕のちっぽけな自尊心まで満たしてくれる。+ブルマー。プライスレス。


 仕事を終えた僕は敷かれた狭軌レールを走るように最短距離で店に行きブルマーガールと飲みブルマーガールと笑いブルマーガールと話をした。ブルマーは僕の脳波にノイズを混入させた。「この子すごいよお、さすがキャバクラのお姉さん!僕の話をすべて聞いている!ブルマー!絶好調である!!!!!ブルブルブルブル〜!胸がキュンキュンする!」僕は女の子が変わって隣に座るたび昂ぶり、心のなかでそう叫んだ。


 「マジで?」「超」「おっととっとギャグだぜ!」「最近どうよ?」「今夜はドンファン。今度は同伴」店を後にした僕の喉は喋りすぎで枯れていた。僕だってこれが偽りの時間だと知っている。刹那の愉しみだと。でも偽モノのダンスタイムで嘘っぱちなチークを踊るのも悪くないだろう。風は思ったよりも冷たく、僕は両手をポケットに突っ込んで震えながら派手なネオンが照らす繁華街の夜を歩いた。馬鹿みたいと人は言うかもしれない。けれど流れていく時間のなかでふと立ち止まって振り返ったとき、後ろに何かが残っていればそれでいい。少しでも。僅かでも。先の場所で見る過去のためにできるのは、案外と馬鹿みたいに今を踊り続けることなのかもしれない。振り返るための鍵はどこにだってある。たとえば極彩色の名刺。ブルマーガールたちの名刺。苗字のない名前。眺めれば今夜の出来事がふっと浮いて出てくる。完全再現とはさすがにいかないけれど。そう、こんな時間を過ごすのも悪くない。なにより「コロ助すごくウマーイ!」ってブルマーガールたちに絵を褒められたのが嬉しいナリよキテレツ!