Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

暇なオッサンは水彩画を描いていた!08秋冬コレクション


 冬は、絵を描くのも寒くてしんどい。作業用のダウンパーカー、擦り切れたニット帽とマフラー、靴下二重履き、ヘッドフォン、花粉症用マスク、黒ブチ眼鏡で完全装備しても足元からの冷気は僕の身体を冷やしていく。水彩画で一番寒さが堪えるのは実際に筆を走らせるときではなくて、「水張り」という下準備のときだ。水張りとは、詳しくは省くけれど紙がボコボコになるのを防ぐための作業で(僕は水を貯めたシンクに紙を浸してから乾かすという男らしい手法を選択している)、水を使う。この時期、暖房もない台所で真夜中にこれをやるとたちまち身体が芯から冷えてしまうのだ。


(ざっくりと鉛筆で下書き)


 僕は、高校に入って初めての夏が来る前に、他の部と同様、美術部でも幽霊部員になっていたのだけれど、画材無断拝借と画集、写真集、その他資料を借りるために部室に顔を出したときはこの「水張り」を手伝っていた。部活の終わる時間が近づくと、翌日以降に水彩画をやる部員はこの水張りをやってから帰宅するのだ。


(ディティールまで書き込む)


 冬。日の当たらない北校舎の二階。放課後。美術室の前にある、古代文明の棺桶みたいな、石で出来た四角い水飲み場。蜜柑の代わりに石鹸を入れた赤い網。それをぶら下げた銀色の蛇口。青錆が目立つ蛇口をを捻り、水を溜め、紙を漬ける。水を切ってから紙を板に止める。その一連の作業を僕は手伝った。女子部員に限定して。「フミちゃんありがとー」「いやいや手が冷えちゃったからオッパイで暖めてー」「さいあくー」僕はガールフレンドが欲しかった。


 そうやって出入りしていて、ある日顧問(ゴメン!名前忘れた!)に呼び止められた。「たまには描いていけよ。それとも下手糞になったから見せられないか?」なんてハートに火をつけてニトログリセリンを撒いたような挑発に、今よりもずっと短気だった僕は簡単に乗って、紙に向かい、殴るように描いた。筆で紙を殴り続けた。ストレート。フック。アッパー。休みをいれずにパンチを入れ続けた。


(完成!お絵かきシリーズ第十弾「奈良東大寺二月堂裏参道」)


 何を描いたのかは覚えていないけれど顧問から誉められたのだけは覚えている。「凄いスピードと集中力だな」「そんなことないっす」「これは今度の展示会に出すぞ」「いいっすよ」「お前、部活に戻ってこないのか?」「マジな絵はたまに描くから楽しいんです」「地道に勉強と練習を重ねればもっと描ける。速く。自由に。気が向いたらまた来い」僕は卒業制作に参加しただけで部活を終えた。


 高校を卒業するときに顧問に挨拶に行った。顧問は僕に同じことを言った。「描いていけよ」僕は筆を取った。殴った。紙と筆が擦れる音が心地よかった。僕は絵を描くのが好きなんだと再確認した。で、また僕は性懲りもなく大学に入ってからも美術サークルに入り、夏が来る前に幽霊部員になり、学祭のときだけ顔を出し、冬になると女の子の「水張り」を手伝った。僕はガールフレンドが欲しかった。


オー!ノー!酔った勢いで下書きを無視して描いてしまった!



もうひとつ。下書きなしで「殴るように」描いてみた。



お絵かきシリーズ第十一弾「京都貴船神社参道」

いい感じに夕焼けに染まる紅葉が描けたと思う。またね!