Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

オッサンTVプロローグ「僕たちの師走」


 上野駅に現れたアシタカさんの姿をみて僕は戦慄した。「アシタカ君、髪の毛…」。坊主。寒くないのか。会社的にはオーケーなのか。「今朝もバリカンで刈りました。HA-HA-HA!」さすが黒人。僕はううむと唸って歩き出した。お互い腹が減っておったので飯屋に入り西郷丼とビールを頼む。出てきた西郷丼を一瞥するとアシタカさんはメニューの写真と比較しはじめ、大きく目を見開くと「これ同じものですかね?」「九州人としてこの明太子は許しがたい」「着色してますよ、これは!」とヒップホッパーらしくDisり始める。アシタカさんの声はよく通る。店内の隅々まで響きわたる。僕は中ジョッキをグブグブ飲んだ。


 食事を終えると国立科学博物館へ向かった。アシタカさんの「「菌類のふしぎ」なんて寂しいものを見ながら一年を終えましょう」アイデア。自然、ツンデレの話になる。「フミコさん、今またツンデレが来てますよ…」「ツンデレってあのツンデレかい?」「そうです。ディカプリオの新作映画でもツンデレ女性にアタックするシーンがあって素晴らしかった」「ツンデレはいいんだけどさ、」「はい?」「最初の『ツン』で死にそうになるんだよね。ウワー嫌われている!キモがられている!って」「その先にデレがあるんですよ」「無理だ。30オーバーにツン第一弾を耐える精神は残ってない。デレツンがいいなあ」「ツンデレはいいですよ。お互い依存せずに自立していて…」それから近くにいたギャルを眺め、「あのまま美しく保存したらいいんだ」とアシタカさんは呟いた。


 「菌類のふしぎ」展会場。予想通りオッサン二人連れは僕らだけ。しかも飲酒済み。「アシタカ君?」「なんですか?」「人、多くないかい?」人だかり。人ゴミ。「なんでキノコなんてつまらないものを皆見にくるんだ!」とアシタカさんは鼻息を吹いた。「菌っていったらナウシカだよね」「フミコさんここ腐海ですよ」カップルの大群の前で叫び始める僕ら。「フミコさん見てください。あのキノコなんて性病のチンコですよ」「神様はなにか考えがあってキノコをチンコに似せてお作りになったのだろうなあ。あ、逆か。チンコをキノコに似せてつくったのか」「うわー性病チンコばかりだ…」「チンコだらけ」「グロいチンコ」「チンコがグロイ」「真剣にキノコをみる女は欲情しているんだろうなあ」「皆、上野でキノコ眺めながら頭のなかは夜のキノコでいっぱいなんだ」「上野に来るな。鶯谷に行け」「セックスアニマル共が…」「…」ふと、僕らの会話が止まる。アシタカさんの目の先にキノコを真面目に観察する美少女。それから「生きていると醜くなる。あのまま美しく保存したらいいんだ」とアシタカさんは呟いた。


 それから秋葉原電気街を目的もなく歩きエロ・ガチャポンを眺めたりして流れでメイド・バーへ。「お帰りなさいませご主人たま!」冒頭から圧倒される。「なんか帰りたくなってきました」「ええー!アシタカさん今入ったばかりだよ」生ビールを頼む。メイドさんがメイド服をきてメイドみたいな身のこなしでカウンター席の僕らの前にやってきて、「ご主人様もご一緒に」などと言っておいしくなるおまじないをしてくれるというので言われたとおりに真似をする。「萌えー萌えー」そういってメイドさんは両手をメイド服の前でくるくると回す。僕らも言われたとおりに繰り返した。「萌うぇー萌うぇー」「萌うぇー萌うぇー」。「まいっちんぐ!」僕はもうすぐ35歳。儀式が終わった。疲労感が身体を這う。「僕はなんだかあがってきましたよ」とアシタカさん。「もうだめだ。さっきの僕の『まいっちんぐ』普通にウケなかったよね。」「うわーあのメイドさん凄い。肌プリプリ。やっぱり肌ですよ」「まいっちんぐ駄目かあ」「あの子はプロですよ。フミコさん受けなかったからってこっち見つめるのやめてください」「僕は駄目だなあ…」「フミコさんダメっすねえ。なんすかさっきの『まいっちんぐ』って」別れの時間がきて僕らは出口に向かった。エレベーターを待つ間、僕はメイドさんに訊いた。「メイドさんは普段もメイドさんなのですか?」


メイドさんはとびっきりの笑顔で答えてくれた。


「質問の意図がわかりませーん。いってらっしゃいませご主人様ー!」


それから僕らはあんこう鍋を食べに行った。

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