Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

13日の金曜日のガールたちへ


 13日の金曜日を明日に控え、うだつのあがらないサラリーマンで賑わう夕方のドトール、禁煙席に座った僕は、13の呪いだか不幸だかを一身に背負っていると感じていた。そう感じ始めたのは些細な出来事がきっかけだ。今朝のことだ。僕がバス停の前に差し掛かると女子高生の一団が、獲物を見付けた猛禽のように全身の筋肉をびくっと動かし、群れとして一斉に携帯をいじり始めた。僕は三十年を越える経験から、彼女たちが僕と接触したがっていると直感する。愛は歳の差を超える。少女に天空の城での同棲を迫ったムスカ様のように。


 「今時の女の子は赤外線で連絡先を伝えるのよ」。いきつけの店の指名ナンバー6キャバ嬢マイ(アゴ勇似)の話を思い出し、僕は携帯の赤外線受信機能を甦らせ、ふたたび何気なく女子高生の前を横切った。携帯を確認。メールアドレス、番号、あるはずの情報は何ひとつなかった。おかしい、なぜだ。悲劇だ。純情を弄ばれた。それとも目が、目がおかしいのか?メガー!メガー!と落胆し錯乱する僕の目前で、女子高生たちはバスに吸い込まれ、助平顔の運転手によって大通りへ消えていった。彼女たちは13人だった。13。13が頭のなかで点滅しはじめたのはそのときからだ。


 ドトールの丸テーブルで13について思いを巡らせ、僕はひとつの仮説を立ち上げ結論に至る。13はthirteen。アナグラムは「tin t here」=「チンチンはここです」となり、13が男性器を指していることがわかる。象形からみても13を構成する数字、1と3、1が陰茎、3が睾丸を指し示しているのは明らかだ。それから13という数字を、今月の数字、2月=2で乘ずる。13の二乗は169。ここで登場する印象的な69はヒントだ。69をシックスナインと読む煩悩よ、ゲットアウト。僕は本質を見極める。69はひっくり返しても69を示す。つまり69の意味するところは万物流転=サイクル=回転。169は1回の回転を意味する。回転の度合いは169度。時計回りにターン。 


 すると陰茎を示す1はほぼ真下を指す。これは勃起不全を意味する。これが呪いの本質。つぎにこの呪いがなぜ僕に該当したのかを考察していった。13を日時に当てはめると1月3日。驚くなかれ僕が最後にエレクトした日である。さらに驚くなかれ1月3日は今年ではなく、平成20年、昨年の1月3日。昨年1月から今2月は1年と1ヶ月、すなわち13ヶ月である。またまた驚くなかれ。13の組み合わせを入れ換えると31だ。僕は昨年の1月3日、つまりラスト勃起デーに、弟夫婦が買ってきた31<サーティワン>のチョコレートミントを食べている。これらの不幸な偶然の一致が僕に13の呪いをかけたのだ。


 だが裏を返せば、来月になれば平成20年1月4日からの月数は14になり、13の呪縛から解放されるということになる。「アレルヤ!ビバ!男性諸君!僕が復活したら、君は果たしていつまで白い歯をみせて呑気に今のパートナーとイチャついていられるかねえ?来月からは既婚ガール未婚ガール問わずに攻めるナリよキテレツ!待ってろガール!ふははははー」などとオッサン特有の都合のいい結論を導き出し、ドトールの煙たい空気のなかで火の玉になり、高笑いをした僕は、明日2月13日で35才になる。アラフォーにもアラサーにも属さないミドルオブ三十代、記念すべきバースデーは、13日の金曜日、花金、バレンタインイブ。こいつはくせえッー!不幸のにおいがプンプンするぜッーーーッ!!とやさぐれているうちに僕の黄昏もやがて終わる。夜半すぎにはもう春の星座がちらほら。桜の花が咲くころには、僕にも再び春が訪れると僕は信じている。