Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・黎明篇 または私は如何にしてお見合い相手の妹に「おにいさん…わたしはじめてなの…」と言わしめたか


 お見合いから半年。「このまま結婚してしまうのかなぁ」って呟きながら毎晩ビールを2リッター飲み続けた結果、健康診断で、糖、不整脈、中性脂肪、γ−GTPが落第点。体重も増で僕メタボ。大山のぶ代似の医師から「死ぬよプゲラ」(超訳)と脅されて、「お見合いに人生がスポイルされているなあ」って嘆きながら病院の検査を終えて出てきたところでシノさんから電話がかかってきた。シノさんは僕のお見合い相手の戦国時代好き(西軍派)趣味コスプレ卵豆腐好きな25歳推定Dカップのスザンヌ似、コードネームはノッピー☆。この夏はレイヤーとして、歴女として、大活躍だった…みたい。


 先月末に会ったときシノさんは、大河ドラマ「天地人」の真田幸村役の城田某という俳優に大変な敵意を持っていらしたので御座います。オヤカタサマー!ユキムラアアアがだめですー!仕方なく、なぜ左様に?って棒読みで訊いたところテニプリのミュージカルにおける某田優の演技に魂が入ってなかったからだという。至極どうでもいい。「へえーーーー」と僕が魂の抜けきった返事をすると「そういうわけで夏はイベントが多いのでお暇をいただきますうー」だって。なにが<そういうわけ>なのか、いつまでも会話が噛み合わない僕ら。それ以来のノッピー☆で御座います。


 「お母様から聞きましたあ。退院したんですかあー?病気治ったんですかあー?」「入院してないです。病気にもかかってないです」「よかった退院できてー病気が治ってー」「いや、だから…入院してないって」。話聞けって。シノさんの用件は、僕の<退院祝いじゃない>退院祝いを埼玉から帰省している妹を交えてやりたい、そこで美食家かつ博識で、鎌倉に詳しいメタボな僕に店を選んでほしい、ということだった。


 で、当日。投票を済ませてから待ち合わせの鎌倉駅東口へ向かう。どうにも気が乗らない。気が重い。「選挙の日って〜ウチじゃな〜ぜか〜投票行って外食するんだ〜奇跡見たい!すてきな未来!意外な位! すごい恋愛!レッツゴー!」って重苦しい鼻歌を唄って行くとシノさんと妹さんが待っていた。「じゃあ店にいきましょう」って僕が先に歩いて「楽しみですうー」と後をついてくるシノさんと妹さんはお揃いのニーソ。黒。


 店に着いた。「ここですか?…」「…」。シノさん姉妹は驚きのあまり声が出ない。僕は胸を張る。「『牛角』です。全国的に安定したクオリティの肉を提供してくれる名店です。僕のような大人になるとリスクを侵さずに安定を求めるのです。ささ、入りましょう」と言って僕は店に入り、席についてパンパンと両手を打ち鳴らした。「マスター!とりあえず生ビール」。


 ジュ〜ジュ〜。カルビを焼く。全国チェーンの安心炭火はジュ〜が安定していていい。半年間で学んだことがある。それは「余計なことは言わない」。貝のごとく押し黙り必要最低限の相槌だけを打ってやりすごすのだ。無口、無愛想に振舞っておれば妹さんの僕評価は地に落ち、おねえちゃんあの人気味が悪いやめたほうがいいと思う的な流れに落ち着き破談となって僕は自由の身に。片腹痛いわ。中ジョッキ追加!


 すごく複雑なのでわかりにくかったら質問してくださいね、と前置きしてシノさんが切り出した。複雑?シノさんち何か事情があるのか。シノさんママがオホホでパパは巨根なのは暗い事情を隠す偽りの姿なのか…。中ジョッキ追加…。「紹介しまーす、妹のレナですうー。埼玉の大学に通ってまーす。ハタチですうー」「はじめましてレナです…」僕ははじめましてと言って、シノさんの言葉の続きを待った。「以上ですうー」とシノさん。えー!終わりかよ。レナさんは大人しい。見た目はシノさんに瓜二つでシノさんの茶髪を黒く染めて眼鏡を掛けさせればレナさんになる。推定Eカップ。それにしても大人しい。ささ、カルビをたくさんお食べ。お肉が元気とオッパイにいくように。


 「おにいさんは…」とレナさん。ハイなんでしょう?「EDなんですか?」あぁ…。「EDですがそれが何か?」「わたし、EDのヒトとお話するのはじめて…」勘弁してくれ。「レナ失礼ですうー」とシノさん、それならインポ情報流すなよ。EDだってインポだってアメンボだってみんなみんな生きているんだ友達なんだ。中ジョッキ追加。しかし、だ。さっきまで大人しかったレナさんがEDなーんてアダルト用語を口にするとは…どこか調子が悪いんじゃないだろうか。きっとそうだ。僕は思いついた疑問を形にして訊いた。「ユー、メンス?」。返事はなかった。


 「おねえちゃんボルト速かったねー見た?」「録っておいた『黒執事』を見てましたー」「まだアニメばかり観ているのー?」「『天地人』はアニメじゃないですうー」。二人の会話を聞いているとまるで趣味は違うようだ。そりゃそうだ、戦国女が周辺で大量発生していたらかなわない。中ジョッキ追加。「じゃあ私たちはそろそろ帰りますうー」「あれまだ一時間しか経ってないよ?」。つまらなかったのだろう。はは。作戦成功だ。ビールがおいしいなあ。アイムフリー。「選挙のせいで『天地人』が一時間早く始まるのですうー!!」「そうですか…じゃあ僕は少し飲んでから帰ります」。オヤカタサマ…。なんでしょう?「キミはレナに気に入られたようですよ…」なぜだ…。


 テーブルの下に本が落ちていた。忘れ物だ。腰をかがめて拾ってタイトルをみてから持ち主を追いかける。ノッピー☆忘れ物だよって持っていくと、レナさんが「あ、それ私の本です。ありがとうございます」。。姉妹で「三成様萌えー」「内府許すマジ!」わけのわからない会話がスタートしたのを見ないふりをして僕は席に戻って中ジョッキ追加。レナ、お前もか!本は「異戦関ヶ原」という小説で御座いました。