Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い・野望篇 または私は如何にしてちっぽけなプライドを捨てクスリで人間をヤメたか


 お見合いによるストレスで目のまわりに湿疹が出来てしまった。湿疹パンダになり下がった僕を心配したシノさんが「いい化粧水がありますうー持ってきますうー」って平野綾の声マネで叫んだので月曜の夕方に会う約束をした。シノさんは僕のお見合い相手だ。戦国時代が好き(西軍派)で趣味はコスプレとドール、カレー嫌いの25歳推定Eカップのスザンヌ似、コードネームはノッピー☆。


 「オヤカタサマー!これが約束していたものですう〜」「あ〜なんか悪いっすね…今日仕事じゃないの?」。シノさんは頭に大きなリボンを付けて腰の鞄はウサギ型。抱えた楽器ケースにはドールが入っているのだろう。「仕事ですうー」「えー!その格好で?」「わたしが何の仕事をしているか興味あるみたいですねえ」「正直ありません。会話の流れとノリでえー!って叫ぶのが僕の癖なんです」


 「オヤカタサマ…」「なんでしょう」「顔がボロボロでまるで…」「なんすか?」「大谷吉継…萌え…」「えー!」「湿疹が治らなかったら大谷刑部みたいに顔を隠せばいいんですう〜謙信公も吉継様も同じ戦国コス顔隠し派です〜」コスじゃねえし…酒飲みたい…。いつもと同じように盛り上がらない会話を断ち切って家に帰った。ノッピー☆は大谷吉継コスをやったことがあるらしいぜ旦那。


 お見合いとは何だろう?昨日まで他人だった二人が結婚を目的に会う不思議なイベント、要するに前戯オブ結婚じゃないか。そのくせ家族とかが妙にかしこまって笑える。でも他人だよ?知らない人だよ?ウンコパンとか食べてる変態かも知れないじゃん?ってクエスチョンを並べて反論したところで、あんた35年間なにやってきたのと指をさされているような気がしてきて僕は打ち負かされる。いけない。インポ以来どうも後ろ向きでくよくよしていけない。


 インポねー。インポさえなければ卑屈にならずにお見合いを処理できるのに。なんたって僕は課長だよ?でもさ、いざ鎌倉って局面になると僕の耳元で落武者が「インポおっさんの相手をしてくれる女なんてもう現れないぞ。いいのか?」って囁くのだ。いいのか?って、よくないに決まってるじゃん。で、「たたなければ添え木をあてればいいですうー」「インポ男子と話をするの初めて…意外と普通なんですね…お箸の持ち方上手…」なんて言われていっつもペースを乱されてしまう。ああなるほど。ああいう人たちをモンスターペアレントって言うのか…。


 敵は我が心にあり。僕はビールをがぶがぶ飲んで小さな紙袋から錠剤を取り出した。バイアグラだ。Hi〜で始まる南米からのスパムメールの誘惑に耐え、恥をしのんで病院に赴き、正当に処方された汗と涙のバイアグラ。これでインポから解放された僕は軍神となりお見合いを蹴散らす。男としての尊厳と自信を回復する。よし、テストだ。僕はやるやれる。「うぉー!!」と部屋の隅においたタンスを威嚇してから僕は手のひらで頬をはって気合いをいれ、錠剤を飲んだ。「俺は人間をやめるぞーっ!徐々にーっ!」


 しばらくすると身体が熱くなってきた。服を脱いだ。汗が流れてきた。湿疹にしみる。パンツをかぶった。暗闇のなかで僕は粛々とスタンディングしていた。だがこの昂りをどうしたらいい?野茂のフォークだって打てるこの歌麿をどうすればいい?意味ないけどエルサレムの方角でも指し示そうかなって閃いたときに携帯が鳴った。「オヤカタサマー化粧水合いましたかぁ?」「シノさん…僕は…俺は…今の俺は世界中のどんなロックンロールよりも危険だぜ」「キャー!」