Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

とある課長の断層撮影(CTスキャン)


 レントゲンで黒い影の映ってしまった肺をCTスキャンするために紹介状を持って東京の病院に行き、名前を呼ばれ、白い服をお召しになられた黒いブラジャーのおばはんのあとについて放射線を取り扱っている地下施設へ向かう際の、おばはんの台詞がまるで風俗嬢、「こういうとこ来るのはじめて?」。いやだなあ、緊張や恐怖や不安なんてないわけない、違う違う、あるわけある、おっろー日本語は難しいなあ、つってあたふたしている僕に気を留めることなく、こちらの部屋になります、という、おばはんの目は笑っていた。


 で、巨大な機械が置かれた白っこい部屋に入るとメガネのオッサンから、服を脱いで…これに…着替えてください…とローテンションで言われ、渡されたのが薄手のガウンみたいな衣服。さすが東京スキャンは神奈川レントゲンと違って粋だねえ、どうだい着替えがあるよ、襟がないのが下町風ね、ってブリーフ一枚になり、その薄ガウンを着ると丈が腰までしかなく、ちっとも粋じゃない。寒いし。権力みたいな顔をして服を脱げというから信用して着用したが、なんだこれは。馬鹿にしやがって。言われるまま全裸になってこの丈短ガウンを羽織っていたら、熊のプーさんのごときフルチンになるところだった。くそう騙された。僕は熊じゃない、人間なんだ。


 怒りに震えていると、着替え…終わったら…台の上に横になってください…って声がして、くそう子供用を寄越しやがって、文句をいってやる、仕切りから勢いよくブリーフ一丁飛び出すと、いやー肺を撮るのだから…ズボンを脱ぐ必要はなかったのに…まあそのまま台の上で横になってください、と心外なことをローテンションで言うメガネに完全なアウェイを感じ、畜生、畜生、つぶやきながら、恥辱のブリーフ姿のまま、僕ぁ、まな板の上の鯉になり万歳のポーズをとったんだな。


 いやん不安バカン、って恐いものはみたくないので目を閉じていると、ぐぐっと何かが動く気配がして目を開くと巨大な機械に開いた穴に僕の全身は突き刺さっていた。いよいよジャッジメントですの!!「イキ吸ってぇい〜」「吐いてぇい〜」「楽にぃして〜」アニメ調機械ボイスに言われるままにしていると終了。スキャン楽勝じゃないか、って僕が台を降り服を脱いだり着たりしていると、相変わらずローテンションなメガネが、咳とか出ないですよね…、激しい咳はしないほうがいいですよ…、うん…咳はしないほうがいい…、お大事に…、なんて話かけてくるものだから、部屋を出るとくには僕の楽勝気分はすっかりお大事気分になっていた。


 で、またおばはんに呼ばれて診察室に。厳めしい顔の医師、デスクのパソコンモニターを凝視している。医師がモニターから目を外して僕をみた。「レントゲンに映っていた影ですが…」「はぃ…」いきなり核心。「…スキャンしてもありますね、はっきりと」「えー!な?はgpたなgはtあかな…」「ご家族は?」ドラマみたいだな〜。「意地悪な母親と着信拒否されている弟がいます。あとキテレツなお見合い相手がひとり…」「ペットは飼われてますか?」「先月からミドリガメを一匹…」「名前は」「亀頭くんです」「キトウですか私の家内の旧姓と同じだ」亀の頭はいいんです、先生、僕はどうなるんですか…。すると医師はパソコンを操作して、これは身体を輪切りにして下から上に上がっていく画像です、これがなんとかであれがほんたら、って説明されてもまるでわからない、先生、偏差値シックスナイン以上の用語使わないで…。「ほらここ。ここに影が見えるでしょう。はっきり見えますよね」「み、見えます…」「これは…」「はい…」癌なのかおい。


 「参ったなあ…ちゃんと持病と過去の疾病は言ってもらわないと…」よくわからない。「先生、僕はガンになったことはありませんが…」「これは癌ではなく肺結核の痕です。間違いない。以前結核になって治療した痕が影になっているだけですよ。子供のころですかね、結核治療大変でしたか?」「先生…」「なんでしょう」医師の厳つい顔がやわらかくなっていた。「僕は…結核を患ったことはありません…」「ご冗談を…」厳つい顔がひきつっている。


 「いや本当です…僕は知らないうちに結核を患い、自然に治癒したということですか?」ウルヴァリンのスーパーヒーリングじゃん、やはり僕はヒーローだったのか…いや待てよ…「そ、そういうことでしょうね…ま、もう完治していますから…」古く苦い記憶がよみがえった。「小学生のころ、母親が突如結核を患って倒れたことがあるのですが…」白い病院のベッドによこたわる若い母の記憶。「フミコさん…」「それってまさか…僕が原因…」「フミコさん!」「はい…」「もう、過ぎたことです…」。ひやりとした空気が首のまわりを吹き抜けていった。


 医師は笑って「スキャンの結果は問題ありませんが、内蔵もかなり弱っていますから、規則正しい生活をして暴飲暴食は絶対に控えてください」といった。「わかりました」「あと何かカラダのことで気になることはありますか?」「実はここ二年ほどEDなのですが…」「では、お大事に…」ってインポ、スルーするなっつーの!