Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。


 こういうのを、お墨付き、っていうのか、楽観はしていたけれど、医者のことばで、問題ない、といわれると、やはり安心する。人間は安心すると、だらしなく笑うものらしい。あれこれと、よくないほうに考えるような、もう、あんな思いは二度としたくない、げらげら笑いながら、そう思った。そういえば生命保険の、保険証っていうのか、あの説明書きを初めて真剣に読んだ。受取人は、ガンなら、入院すると、なんて、早朝に布団から飛び起きて、床の冷たさに震え、新聞配達のバイクの音を聞きながら、机の引き出しをひっくり返しての慌てぶりを振り返り、げらげら笑う帰り道、コートのポケットで携帯電話がぶるぶる震えた。母だ。いざとなったら保険があるから、なんて強がりをいって、肝心な、病院にいく日時を伝えてなかったな、通話ボタンを押し、もしもし、と言うと、けふぉ、咳払いが聞こえる。また、昼スナックから酔っ払って掛けてきたのか…、あきれて、もういちど、もしもしと言うと、歌が。


猫とアヒルがちからを合わせてみんなの幸せを〜 まねきねこだっく〜


猫とアヒルがちからを合わせてみんなの幸せを〜 まねきねこだっく〜


猫とアヒルがちからを合わせてみんなの幸せを〜 まねきねこだっく〜


 まねきねこだっくうぅっるる〜、ママさんコーラスの経験から勝手にこしらえたソプラノパートを歌い切ると、何も言わずにぶちっと電話は切れた。部屋に散らかした保険会社のパンフレットを見たのだろう、僕を安心させるつもりだったのだろう、ちょっと的外れな気もするけれど、なんだか嬉しくて、可笑しくて、歩きながら、また、げらげら笑った。突然、会話もなく、まねきねこだっくうぅっるる〜、なんて、敵わないな、と思った。受けたものに報いることは、おそらく出来ないのだろうな、それは少し、つらいとも。ただ、母よ、惜しいな。僕が入っているのは猫とアヒルの保険じゃないんだぜ。