「カマボコから手ぬぐいまで」なんて古くさい社是を掲げる我が社も近代化の荒波は避けられず、部長の思いつきで全員でツイッターを今月からはじめている。
過日。部長「無礼講だ。俺は何もいわない。自由にログインしろ。気に入ったサインアウトには俺がリムーブを贈呈してやろう。HAHAHA」。用語の意味わかってんのか?とかくかくかくかくかくかくしてツイッター生活が始まったのである。
で、過日の翌朝。活力あふれるツイートがタイムラインを埋めた。「出勤なう」「眠い」「企画書できてない」「新宿でオットピン買お」「今日飲む?」。うおお、部長が叫んだ。すわ部長の逆鱗に触れたか。走る緊張。素直すぎたかなー気楽すぎたかなー。様子を伺っていると「おい、ツイッター、どうやって見ればいいんだ!」と部長。誰かがログイン介護してやると、部長は、ほう、なるへそ、そうか、これなら馬鹿でもできるな、なるへそ、と呟いて画面を睨みつけた。
で、おえ、とか、うわっ、とか奇声を発しつつ一時間経過。で、これが部長のはじめてのつぶやき。
「千客万来」 一文字あたり十五分。
「部長の言葉に感動した。」「部長の本音が…」「俺ちょっとトイレいってくる」タイムラインは感動の連鎖。
昼。外に出払った営業部員からのタイムライン。そこからは営業マンの本音と疲労が垣間見られた。ツイッターは吐き出しツールとして案外有効かもしれない。
「歩きすぎて足が痛い」「ああ、また駄目だった」「眠い」「なんで残業代がないんだウチは」
一方、そのころ部長は、部長席から微動だにせず、文字入力を
練習していた。秘孔を突かれたジードのメンバーのようなツイート。「あええm、ぶ、ぶっすまああ」「いじんさnんににいtつえれられてやっちゃった」終始こんな感じ。
夕。出先から戻ってきた営業部員は部長から呼び出しを受けた。なんだ?会議室に全員が揃うや否や、気をつけええええ、部長が怪鳥のような声を出し、「お前ら、」ひとりひとりに怪光線を飛ばしながら「昼間のあのツイッターはなんだ」と言った。それから、先月から週間アスキーを購読し、パソコン人間を自称する部長は、「俺は今日一日、文字を入れていた…」と言葉を継いだ。ええ、あの意味不明な文字列ですね。全員がタイムラインを見て、共通した認識、<部長は遊んでいる>。
部長は大声を出して、両手でホワイトボードを殴打した。「お前らの本音はあれなのか?」「ええ」「そうですがなにか」。部長はあんなものは営業マンの本音じゃねえ、上司を崇める発言がねえ、と呟いてから、虚空をきっと双眸でとらえると、「明日からは俺を敬う発言をしろ。上司の気分をよくするのが部下の仕事だ…俺はお前らの正直な、素直な気持ちが知りたい…が、気分を害されるのは好きじゃない」と言い、わかるな?とあの独特な、嫌らしい、笑顔をつくった。
で、過日の翌々日、朝。僕らのタイムラインは空虚な生気に溢れていた。
「部長のしたで働けて幸せだ」「部長から多くのことを学ばなければ」「部長の像でもつくりましょう」
部長はご満悦なご様子でその日も意味不明な発言を繰り返していた。
その後も部長は「麻衣子野迷子鋸猫産」「SIGOTOGADEKIRU」等々、意味不明な文字列を吐きつづけた。
こうして、我が社における自由なツイッターはたった一日で終わったのである。