Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

保育園がコワイ(>_<)


 食品会社に勤めている。今年の冬、新商品として保育園向けの食事を開拓することになり、勉強のため、ある老舗保育園(認可私立保育園)を紹介してもらい見学することになった。僕は久々に本気モード。「保育園=短大卒業したての保母さん」「保母さん=子供相手ばかりで出会いを求めている」という認識が僕を突き動かしていた。いわば保母さんは港、僕は愛のナンパ専。その保育園の理事長は熱心な教育者だと聞かされていた。

 現地につくなり、僕の熱視線を放射された保母さんから警戒されたらしく「ウチは若い男性職員もたくさんいます」といわれて三秒死にました。「男性が多いと仕事に張りが出るんじゃないですかぁ。僕は男性がいてもいなくても仕事ぶりは変わりませんが」蘇生するなりのジョークは流された。嫌われちゃったかな。小声で呟いてみた。とんとんとんとん。聞こえてくる「こぶじいさん」の歌がこんなに悲しく聞こえるなんて。奇妙なことに保母さんは左側の壁に、ほとんどくっつくようにして沿って歩いていた。


 理事長先生はシャキシャキしたお婆様で保育園をつくったいきさつや理念、それと保育園における食事について丁寧に、いや、もう、なんつーかくどいくらいに教えてくれた。保育士・職員の教育にも熱心だということも、丁寧に、いや、もうホント、勘弁ってくらいに熱弁を奮った。なので、お茶をいれた職員を立たせてお茶の濃さ?が教えたとおりになってないと大声で怒鳴ったときも教育熱心な婆さんだなと思っただけだった。そのときは。


 それから施設見学。実際の現場を見て、もしかすると今の保育園はこういうものなのかもしれないが、僕は驚いた。暗く、寒いのだ。園の中が。僕が率直にどうして照明を点けないのか尋ねると、理事長先生は経営が厳しいので節約節制を心がけていると答えた。園児たちにも我慢すること耐えることを覚えてもらうのも理念のひとつだと付け加えた。冬だ。暖房をつけていないのでスリッパをはいていても足先から冷えてくる。洒落たフローリングの床がまた冷たい。理事長はいっていた。「すごく洒落ているでしょう?スイッツランドの山荘みたいでしょう。同業の人からの見学も絶えないのよ」。洒落てるがフローリングと吹き抜けと高い天井は暖をいれないと寒いだけだ。外からみたときに園児と先生が窓側にいるのが不思議だったが謎はとけた。明るさと暖かさを求めて窓に近づいていたのだ。節約、我慢、忍耐と理事長がいうなら許されるものなのかね…、自分とは別の業種なので、保育園とはなんとも珍妙な世界だなと違和感を抱きつつも、そう思った。


 厨房と実際の昼食を見せてもらった。気になったのは厨房内の暗さだ。髪の毛が混入しても気付かないと思われるレベルのうす暗さ。照明を一部しか点灯せず、点灯した照明も蛍光灯を半分程度に間引きしてあった。節約・倹約。ここは僕の分野だ。見て見ぬふりはできず、たまらず理事長に、厨房が暗いと異物混入などの事故のおそれがあるから改善したほうがいいとアドバイスした。理事長は「たとえ何かが食事に入っても園児たちにはわからないから」といった。


 驚いた。たとえ髪の毛がはいっていても、子供たちにはこういうこともある、おうちで髪の毛がはいっていることもあるでしょ、髪の毛くらいでもったいないから食べなきゃダメよと教えるそうだ。確かに言ってることはもっともだが食を提供する者は先ず事故の予防を徹底すべきで、その結果として、たとえば髪の毛が食事に混じったのならば理事長の言うことはわかるのだが…我慢忍耐の教育理念は打たれ強く。怪我とかしたらどうするのですか?と聞くと四十年一度もそんなことはないからと理事長は誇った。食の業界にいる人間として言わせてもらうなら、ほぼ毎日昼食と間食を提供し続けて四十年髪の毛一本も入ったこともないのなら、それは奇跡だ。


 試食しながら理事長先生はつづけた。食事はまず大人の舌にあわせてつくり、大人からをとりわけ、残ったものを園児でわける、その日残ったものは次の日に主菜なら副菜、フルーツならガロニ、というふうにして形を変えて出す。園児は味がわからないから、無駄をなくすためだと。これも忍耐我慢の理念なのか。子供だって味はわかる。同じものが出れば分かる。ただ細かい表現ができないだけだ。僕からみれば怠慢としか思えなかった。大人の。それともあきらめっつーのか。食べる側の表情や仕草、それに残食などから推察するものじゃねーのか嗜好というのは。僕は何点か言い返したが長年の実績がその理念とやらを補強していて打ち負かすことは叶わなかった。


 なんで冬の話をしているのかというと、そこの保育園を紹介してくれた人から、あの理事長が一段と評価されていると聞いたからだ。今の節電・倹約ムードな世の中を先取りして倹約・忍耐・我慢を子供たちはおろか職員父兄にまで教えている理事長先生は素晴らしい人だと保護者のあいだで評判らしい。理事長はご満悦、父兄は満足。園児も、大人たちからみれば、我慢を教わっていい子いい子。そしてウチは保育園方面では難儀してるうだつのあがらないコダワリがありすぎてどこからも評価されない食品会社。つーか、この伏魔殿のような評判の構造が恐ろしく思えるのだが保育園ってどこもこんなかんじなのかね。


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