Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

ボクの会社でビジネス書がダメなワケ


 今日の部長の笑顔は、アメリカ大統領選挙における演説集会で同じTシャツを着て大統領候補のうしろに並んでいる支持者が浮かべる胡散臭いスマイルを連想させた。夕刻。営業会議。ゴルフ焼けで黒光りする部長が、くわっ、と目を見開いた。会議室の重苦しい空気をソーラーレイのごとく切り裂いて部長が叫ぶ。「こんな簡単なことが解決できないのカァ〜」。ペッ。絡んだ痰をハンカチに吐いた勢いそのまま今月中途入社してきたサオリちゃん(男性/独身/51才)に突っかかっていった。

「ペッ!サオリ営業IN…俺が言っているこたぁそんなに難しいか…何で黙ってる…」。部長の『営業員』はなぜか巻き舌。外人みたい。「私は…」「サオリ営業IN!サオリ営業IN!今は俺が先攻している番だ。出来る営業マンは攻守をわきまえる…ビジターの読売ジャイアンツは常に先攻…サオリ営業INはまだ二軍…試用期間だったな…」部長がサオリちゃんをスポイルしてる様を見ながら僕は部長の難解な課題を振り返っていた。「オリジナルでスペシャルな自分スタイル。そいつで同業他社を破滅させるにはどうすればいいか。あるいはオリジナルでスペシャルな自分スタイルで同業他社を百年リードするにはどうしたらいいか考えて出せ」。自分スタイル、無理だ、無理すぎる。


 部長が、辞めるかアーン、辞めたいかア〜ンア〜ン、とサオリちゃんを追い詰めるにつれ、部屋の空気は重苦しさは増すばかりだった。実際、重苦しかった。昼寝の結果、昼食をとれなかった部長の「戦闘力のある営業部隊はランチミーティングで活発な意見を交換するもの…。口が消化器官と発声器官を兼ねていることは多忙を極める俺にとっては不幸中の幸いだった…俺は食べながら仕事の話をし、仕事の話をしながら食べる…」という自己都合で今日の営業会議は弁当を取り寄せてのランチミーティング。デミグラスハンバーグ弁当。部長スタイル。


 会議の冒頭、部長は好物のデミグラスハンバーグを食べながら演説した。「お前らは本を読まない。本を読まないお前らのために今の書店の実態を教えてやろう。最新だ。ドラッカーは死んだ。今はタニタだ。社員食堂だ。俺たちの戦場『食品業界』だけでなく日本全国に今タニタがキテるぞ。食い物がキテる。つまり食い物屋の俺たちも勝てる…なぜなら世の中タニタタニタタニタタニタタニタタニタ、タタニタ、タタニタ、ニタタだ」。土着的なリズミで『タニタ』を連呼する部長の口のなかでハンバーグは挽き肉へ還っていくのが見えタニタ。汚かっタニタ。部長以外のメンバーは昼食を済ませていたのでハシが進まなかった。デミグラスハンバーグ弁当は胃に重すぎた。


 辞めちまえ。やる気あんのか。部長のバイオレンスを見るに見かねて僕は口をひらいた。「部長っ!」「なんだフミコ営業KA-CYO(課長)…」「読書家の部長はたくさんのビジネス書を私的に経費で買われて読んでますよね」皮肉まじりだ。どうなったって知るか!「ほぅ…確かに経費で本を買い古本屋に売った金をお前らとの酒代に充てているが…話を聞こうか…」と言って部長の目が優しくなった。そしてアメリカンスマイル:-)。皮肉がわからないらしい。何かの病気だろうか。


 「ですから部長のビジネス読書経験からヒントをお願いできますかね」「ひとことで済む」。会議室騒然。ひとことだって?早く言えよ。本当に読んでいたのか。馬鹿な、部長がフリガナなしの書籍を?ガラガラペッ。からまっていた痰を木綿のハンカチーフに吐き捨てた部長は悠然と立ち上がり、世に氾濫するすべてのビジネス書を葬りさる言葉を吐いた。「いろいろ読んだが…」悪魔の言葉だった。なお、現時点で本を売却したお金で飲み会が開催されたことはない。「我が社、いや俺の営業部にとって一般ピープル向けに書かれた世のビジネス書は役立たずの無用の長物だ…なぜかわかるか…」。わからない。「俺が特別で例外だからだ!」

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