Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

悲しいけどこれ左遷なのよね

 過日。午後9時過ぎの誰もいない会社で窓を開けズボンを脱いで休憩リラックス。湘南の夜風が脛毛をなめるようで心地いい。誰もいないことをいいことに録画しておいた「ビッグダディ」と「ナディア」を鑑賞。その様子を、たまたま気分が悪かった社長に見つかってしまったのが運のつき。

「課長、何をしている?」
「仕事の効率とヤル気をあげるためにビッグダディを観ていました」


 上はスーツとワイシャツ、下は短パンという、いわばネオ省エネルックで、的確な返事をする僕。「会社で…遊んでるのか…」と社長。声が怒りで震えていた。的確ではなかったようです。社員名簿にギャグがわかる社長はいませんでしたいませんでした。画面のなかでビッグダディの子供たちが離婚詐欺にあって泣いていた。まるで僕のかわりに。怒りに我を忘れた社長にナディアを消されてしまった僕のために泣いてくれていた。


 で翌日。辞令がキタ。5月から静岡支社への異動。肩書が増える。取締役営業二課長兼静岡支社長兼静岡エリア担当営業というわけのわからないものになる。らしい。辞令を伝えた部長は僕の当惑した表情を、不満、のあらわれだと勝手に受け取り、きゃっ、と虐待された仔猫のような声をあげてからニヤっと笑い、「イエスか?ハイか?」と凄んできた。馬鹿にしてるのか?


 悔しいので「英語か日本語か…言語を選択しろと仰るなら」と意地をはりそれならドイツ語で…と言ってみた。しかしイエスをさすドイツ語がわからない。仕方なく苦し紛れに、「キルヒアイス」と言ったら「最初からそう言え…。手間とらせやがって…」となんだか部長納得してんから結果オーライ。よかった銀河英雄伝説を愛読していて。奴は勇者だ。ただしバブル時代のな。心のなかでつぶやいておいた。


 静岡支社の立て直しのための異動といわれたのだが、

一つ、静岡支社スタッフは3月で全員退職したために支社といっても僕ひとり
二つ、スタッフ退職と同時に事務所賃貸契約も解約。元重役の自宅を一応の事務所とするが当面実質事務所なし(携帯をわたされた)
三つ、住居手当なし(期待してなかったが)
四つ、営業車あり(走行距離16万キロのバン、マニュアルシフト)
五つ、本社営業部の責任と数字はそのままもつこと(+静岡支社)
六つ、退職した静岡支社スタッフが退職後に組合的な組織に加入して訴えを起こす可能性がある。
   訴えを起こされたら支社の責任者として対応すること。なお、本社はこの件に関して一切関知しない。
七つ、対前年比0パーセントに落ち込んだ支社の売上を前年レベルまで回復させること。
   出来なければ「おしおきダベー!」(部長の言い回しそのまま)

という条件をつきつけられた僕は、「これは…世にいうサ…サ…サセ…あのサセ子の名前はなんだっけ?…」と現実と現実逃避のあいだをスイッチバックで往復しながら、次第に絶望的になりつつあったのだけれど「新婚早々左遷だなぁ。おぃ。辞めてもいいんだぞ」という部長の追い討ちに対する憤りでかえって絶望が薄まった。しかし、こんな急な話……謀ったな、部長!


帰路で岐路について考える。左遷?なにいってんの!左遷を左遷にするのは自分次第だ。左遷じゃない。左遷じゃない。本当のことさ。ジョン・レノンもイマジンで歌ってた。「左遷なんてないんだ」と。そこから新たなモチベーションを得られればいい。左遷とはちがうのだよ、左遷とは!部長とはいつでも遊べるから。静岡には大好きなガンプラ工場もあるしね!絶好調であるっ!


 バイアグラで無理矢理勃起させるように無理無理にポジティブシンキング。僕には守るべき妻がいる。シノ。彼女がいてくれさえいれば、僕はブルセラショップでJK制服だって買える。頑張れば下着だって。彼女が微笑んでくれたら左遷は左遷でなくなる。シノ。私を導いてくれ!

 自分でも気付かないうちに競歩程度の速度で駆け出していた。庭の飛び石を右足一本のケンケンパで駆け抜ける。玄関のドアを開ける。「オヤカタサマー!」つまのこえ。そこで。「やあ。シノさん静岡に異動になったよ。栄転だ」という僕の玄関でのポジティブな言葉は妻の言葉にかき消された。「どうみても左遷です。本当にありがとうございました…」


 やっぱこれ左遷なのかなと自問自答しながら今僕は新しい生活の準備をはじめた。バタバタしていて連絡が途絶えがちになるかもしれないけどそんときはサーセン。妻とはセックスレス週末婚生活になりそうだ。だけど僕には。僕にはまだ帰れるところがあるんだ…こんなに嬉しいことはない。



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(プレス)

http://www.ips.co.jp/news/2012/03/post_9.html

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