Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

福祉の名を借る怪物と組むべきか拒むべきか。


 神奈川県の小さな食品会社で営業課長をやっている。最近、社内での政争に若干敗れ、上司からの妬みや嫉みに追われるようにして静岡支社の建て直しも兼務している。支社といっても僕ひとりしか人員はおらず…というのは別の物語で、僕が支社の件で留守をしている隙に、部長がある商談をもってきて契約をまとめるように言ってきた。


 部長は「1年前に貴様(僕)が詰めきれなかったがかわりに俺が煮込んで腸に詰めてやった案件」というが実際にはそうではなく僕のほうで断った仕事だった。とある社会福祉法人施設での食事提供の仕事で、法人の理事長が高額のバックを要求してきたのが断った理由。理事長は法人に高く請求しても構わないが、そこから手数料・紹介料として理事長個人に支払えと言ってきて決裂した話だった。


 地元の名士だかなんだか知らないがクソ喰らえという個人的な感情もあるが、食べてもらう人のことを第一に誠心誠意考える、という社是に反すると思ったからだ。サービスの対価にわけのわからない金をアドオンするような仕事はしたくなかった。綺麗事じゃなくて社会福祉法人への補助金や利用者が支払った利用料をわけのわからんものに流しては駄目だろ。モラル的に。理事長は断ると「ホントに?」と驚いていたけど…まぁ大筋はこんな感じ。


 あれから一年。条件は前回とほぼ同じ。《仕事は同僚の机に眠っている》が口癖の部長は言う。「お前…うちの会社の状況がわかっているのか?」。一年で会社の状況は一変していた。創業以来初の赤字。「赤字なんだぞ!赤いぞ!あっちの水は黒いぞ!」営業ミーティングただひとりノルマを達していない部長の活がいろいろな意味で虚しく響くようになって久しい。


 件の仕事の売上があれば…部長は囁くように言う。「俺の予算は達成される…。面白くねぇ話だがこう考えろ。割高だが金額に相応に見えるような仕事をすりゃあいい…60グラムの肉だって叩けば100グラムに見える…施設の利用者には細かいこたぁわからねぇ…あいつらは…」それから部長は汚い言葉を吐いた。クソめ。


 部長はピュアにクソだが言っていることのごくごく一部は理にかなっていた。見積り金額に相応のサービスを提供すること、現状よりコストダウンにつながるうえ内容も(おそらく)向上すること、会社の業績を助けられること、等々いいことづくめ。だが、この仕事を受けることで半世紀守ってきた社是を裏切ることにならないだろうか。犯罪じゃないがモラルに反するんじゃないか。


 部長はいう。「目の前にある仕事に食いつかない奴は営業マン失格だ。やめちまえ」 確かにそうだ。だけど何でもかんでも食いつきゃいいもんじゃないだろ?僕は悩んだ。社是を頑なに守ってきたからこそ会社は半世紀生き残り、長く取引していただいている取引先もいるんじゃないのか。でも…会社の売上利益現状を考えたら…。そもそもこれは社是を裏切ることにはならないんじゃないか?


 部長が「てめえの仕事だろ…俺は道を示しただけだ…自分の手を汚したくねぇしよ。」といって動かないので、僕は営業部課長としてドライな判断を下した。自分の判断が正しかったのかわからないけれど後悔はしない。


 僕はまたも断ったのだ。


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