Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

精液検査してみた。


 私事で恐縮だが先ほど病院に精液を出してきた。精液検査である。結果は本日中。難産だった。先週末。不妊治療を受けて帰ってきた嫁さんから「精液の検査。これいっぱいになるまで入れるように」と言われ渡された容器を目にしたときの絶望感を、僕は死ぬまで忘れないだろう。

…無理じゃね?


 その狂気じみた大きさと、家庭的かつ機能的な出で立ちに見え隠れする冷酷さの前に僕は絶対無理…と愕然とするほかなかった。たった一回で…。これを…。満たす…。追い討ちをかける嫁さんの声「用手法を用いること。採取後出来るだけ早いうちに持参すること。水などで薄めないこと。直射日光を避けること。エサを与えないこと」。ヤシマ作戦をシンジ君に伝えたときのアヤナミレイのように必要以上に事務的な声だった。用手法とはマスターベーションのことであった。後進のために「「手」は君の手でもいいんじゃない?」という僕の提案が黙殺されたことを付け加えておく。


 マスターベーション歴30年の大家を自認する僕、だが、しかし、この量は無理だ。技術力や精神力では如何ともしがたいボリュームであり、この量を準備するには数ヶ月が必要だ。そのことを懇切丁寧に説明すると細目になった嫁さんは確認するために病院に電話をかけた。「ウチの主人が戦う前から泣き言を言ってしまって、ええ、じゃあちょびっとでもいいんですね。はあ、個人差ありますからね。すみませんへなちょこな主人で。なるべく出させますから〜それではまた〜」電話を切って「少しでいいって…」。


 精液の量が少ないことは罪なのだろうか。個人差ということは過去にこの容器を満たした強者がいたのだろう。何万、何十万、何百万もの強者の歴史。歴史は強者により語り継がれる。その強者の歴史の影にはどれだけのちょびっとさんの虐げられた歴史があるのだろうか。精液の量で人間をみるなんて哀しい。どこかでツバメの子供が鳴いていた。


精液の採取は嫁さんの通院にあわせて週末の朝。日光を遮るためにアルミホイルにくるんで持参するプランだった。「速度ですう。この作戦は速度がキモです」そのころの僕はまるで事務的機械的に乳を搾られる乳牛の気持ちだ。不妊治療の前に性生活がないことを問題視すべきではという僕の意見は「精子が元気に泳いでいるのを確認してから。それに?」「なに?」「体外受精もあるし」という経緯で嫁さんの合理性にかき消された。時に合理性は人間を抹殺する。さよならマッスルドッキング。



 「それじゃあ。週末。二人でがんばろ」と笑顔の嫁さん。「俺がEDなの、忘れてないよね?」「お薬出しておきますねー」と楽観的な嫁さん。セックスレス、インポテンツを棚上げして不妊治療を受ける夫婦ってなんだろう。バイアグラでドーピングして無理矢理に出す夫ってなんだろう。ドーピングに走ったベン・ジョンソンの記録は歴史の闇に消えたよな…あれこれ思想してしまう僕、「いつ出すの?今でしょう!」嫁さんの明るさだけが救いだった。


 今朝。検査当日の朝。速度にこだわる嫁さんは隣室に控えていた。「君をオカズに」と言える空気はありませんでした。嫁さんから風鈴を渡された。事の最中はこれを鳴らせ、音が絶えたら様子を見に来るからと言う。難易度高すぎる。即身仏か。世界中のどこに配偶者の監視下で自慰行為にふける男がいるだろうか。人権を返せ。終わったら鳴らすよ!ナーバスになっていたのだろう思いのほか声が大きくなる。「御武運を…」嫁さんが手を合わせているのを背中で感じた。



タイミングをはかってドーピング。


絶望がリアルになる。

 僕はショーツを下ろした。ソックスは脱がない。この一瞬だ。この一瞬のために酒を断ち、極力ギャルを視界にいれないよう地を這うように生きてきたのだ。水魚のポーズ。薄い壁の向こうに息を潜める嫁さんの目を感じた。うん。これはありかも。アハ体験。薬の効果か。直後にヘブン状態。長年の謎が解けた。ヒーローものの最終回。僕はずっと恋人に正体をカミングアウトするときのヒーローの心境がわからなかった。あの清々とした顔。あれは苦しみからの解放からきたんじゃない。僕にはわかった。あれは単純に気持ちよかったんだ。愛する者のまえに全てをさらけだすのが。アヘ顔だったんだ。精力溢れるモロボシダンの声がした。「アンヌ、僕はねウルトラヘブンなんだ!」。たぶん、そのときの僕は最高に最低なアへ顔だったにちがいない。


 詳細を描写するとテロ扱いされるので省かせていただくが結論から言うと出ました精液。人類にとってはささやかな量だが、僕にとっては大きな一滴である。導いてくれたAV女優の羽月希さん、つぼみさん、成瀬心美さん、昨日放送のドラマ「みんな!エスパーだよ!」、ファイザー製薬には厚く御礼申し上げる。


 ショーツをあげて風鈴をチンチンと鳴らした。「ミッションコンプリート…」駆けつける嫁さん。胸を張り容器を渡した。中を覗きこむ嫁さん。静寂がしんとして耳が痛いほどでした。


「これだけ…ですか?」


 …今なんと?嫁さんは手のひらの容器に目線を落としながら、またも「たったこれっぽっち…ですか?」。


 人間失格。なんだろう、この、僕という人間の全てを否定されたような気持ちは。容器のなかを見つめる嫁さんの眼の色が慈愛なのか哀れみなのかわからなかった。耐えられない。「ママ、お願いだからボクのミルクをみちゅめないで。恥ずかしいよう」はりつめた空気を赤ちゃん言葉で和らげようとした。僕の願いが聞こえたのか嫁さんは無言で容器をアルミホイルで包むと、言った。「ささ、早く病院へ」。僕がハンドルを握って病院へ。バイアグラはギンギンに効いていた。進撃の巨チンである。


 病院の前で「このちょびっ子たちが元気に泳いでくれてたらいいんですけど。昼ごはんにあたしの好きなアレ買っといて」とだけ言うと嫁さんは白い建物に駆けていった。嬉しかった。僕はエレクトしたまま車を出した。夏の予感がする海岸線に車を乗せる。エレクトしたままだ。窓をあける。潮のかおりが僕と怒張した僕自身をやさしく撫でていく。検査の結果は午後には出るだろう。僕は、あの海を泳ぐ白身魚のように僕の白い分身が元気に泳いでくれているよう祈った。神様。味方しないでいいから、邪魔はしないでくれ。僕たちのため。なによりも嫁さんのために。帰り道に買った嫁さんの好物の生シラス、今は食べる気がしない。



(追記)
結果でた。

兎にも角にも精液量が少ない。少なすぎるといわれた。

僕の年齢(39才/中間管理職)だと平均1.5mlが平均のところ僕は0.3mlしかなかった。嫁さんからは「量は問題じゃないってキミは言ってたけど、少ないにもほどがあるよ…」「ちょびっと君…」と呆れられている。明日からは僕の苦手なネバネバ系の食事が毎日食卓に並ぶ。弁当も然り。こうして、人様より少ないのでは…という僕の四半世紀に渡る疑念は現実のものとなったのである。人生がビターすぎる。


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