Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

こうして僕は「追い出し部屋」に飛ばされた。

 人生で一度だけ犯罪者扱いされたことがある。十年前のことだ。僕は犯罪者扱いされ、今でいう「追い出し部屋」に飛ばされた。思い出すだけでまだ怒りがおさまらない。

 当時、僕は転職してきたばかりの営業マン。異なる業界からの転職だったのでローカルルールを覚えるのに必死。在籍していたのは資材部の営業チームで、上にはコーダ部長、ハラ課長の二人がいた。コーダ(実名)の口癖「仕事デキねえな」にムカつきながらも、仕事に追われていたし、前の職場に比べてシステムが雑だったので関係各署にあれこれ要望を出したりして煙たがられたりもしたけど、それも含めて新鮮で充実した時間だった。


 ある日、経理の入金担当から呼び出しを受けた。入金がおかしいと担当は言った。僕の部署と取引がある顧客だった。入金がないわけでも遅れてるわけでもなかった。ただ入金額が少なかった。請求額とは異なる金額。彼は「既にコーダたちには伝えてあるが状況は変わらない。君のほうで調べてみてくれ」と言った。「秘密に、ですか?」確認すると「そのほうが君のためだと思う」と彼は助言めいたことを言った。後でその助言を聞いておけばと後悔する羽目になるとは思いもしなかった。


 早めに解決させたかったので問題の顧客に赴き、直接当たってみた。すると顧客の社長は請求額通り支払っていると抗弁してきた。社長の資料は、請求額と振込額の一致を示していた。「すみません。何かの間違いみたいです。失礼しました」退席しようとする僕に社長は「コーダさんは君が来るのを知らないよね?知っているはずないよなあ」と言った。??そのとき感じた違和感は、嫌な予感に変わっていった。


 コーダとハラのパソコンを調べてみた。ローカルのフォルダに請求書があった。経理から提供された資料と対比させて調べていくうちに僕は気づいた。請求書は二重につくられていた。からくりはこうだ。「1000万の仕事をする。1000万の請求書を起こす。その請求書が経理にあがる。《なぜか》1000万の仕事に対して500万の請求書がつくられる。500万の請求書は経理にあがらずに客に送られる。客は500万の請求書に対して500万を支払う。すると経理では1000万に対して500万の入金しか確認できない」。


 アホらしい杜撰な計画。僕が入社する前から犯行はおこなわれていて、その時点で既に半年以上経過していた。損害は億をゆうに超えていた。犯人はコーダとハラの二人であることは明確だった。僕には《なぜ?》こんなすぐにバレるような稚拙な計画を立てて実行したのだろうというクエスチョンしかなかった。甘かった。二人に対する信頼が僕の判断を鈍らせた。このとき自分自身を守る行動をとるべきだった。


 僕は無意味な正義感なら二人を呼び出して二人の前で二人がやってきたことを明らかにした。僕のクエスチョンはあっけなく解けた。二人はその顧客から個人的に金を借りていた。そして隠蔽するための次の計画も。「返済のためにやったんですか?」「そうだ」「あの社長も共犯ということですか?」「…」「黙っても仕方ないでしょう。認めなさいよ」コーダの答えは意外なものだった。「お前、頭は多少キレるけど、シゴトできねぇな」もう話すことはなかった。


 僕は経理に調査した結果と限りなくグレーの共犯について報告した。すぐに大きな騒ぎになって弁護士沙汰になり、まもなく資材部は廃された。コーダとハラは懲戒解雇になったらしい。らしい。という伝聞なのは調査がはじまってすぐに僕は共犯の一人とされ、調査から隔離されてしまったため、処分の全貌と詳細については知らされなかったからだ。

 コーダとハラは僕の使っていたパソコンのローカルにも偽の請求書を保存していた。それが見つかった。僕はヤラレタのだ。いざとなったら僕に罪を押し付けるつもりだったのかもしれない。三人しかいない部署という状況も僕には不利だった。「1人だけ知らないなんてありえないだろう」「どうして君のパソコンにこんなものが?」


 誰かが、何かが僕に責任を押し付けていた。それが誰なのかはわからない。わかったのは《組織に必要なのは事実ではなく、明確な形で責任を取る人間》という考えを持つ者がいることだけだ。


 こうして僕は当時帰ってこられないことからアルカトラズと揶揄されていた港湾倉庫に飛ばされた。今でいう、追い出し部屋だ。そこでの話は既に述べた。(http://d.hatena.ne.jp/Delete_All/20130719#1374206676


 アルカトラズで1年を過ごし運よく本社に帰ってこられた僕がまず思ったのは無実を証明すること、濡れ衣を被せた奴らに必ず思い知らせてやるということだ。そして、とりあえず出した損失は返してやろうと決めた。ドラマみたいに「倍返しだ!」と言いたいところだけれど、現実は1年に十分の一ずつ、与えられたノルマに上乗せして返していくという一人ぼっちの地味でしょぼい闘争だった。10年で返した。10年かかった。10年かかってやっと犯罪者の濡れ衣をはらせた気がする。


 僕を飛ばした人事担当には定年退職するまで散々嫌みを聞かせてやった。だけど僕に罪をなすりつけたのは…経理なのか監査なのかそれともトップなのか、わからないし、たぶんもうわからないだろう。けれど濡れ衣だろうとなんだろうと自分のケツは自分でふく。それが僕の流儀だ。

 アルカトラズに飛ばされる前に、一度だけ、あの限りなくグレーな社長に会う機会があった。「なんか大変なことになったね」としらを切る相手に僕は「人を呪わば穴二つといいますけれど今の僕には穴はひとつで十分だ」と言っておいた。それくらい言う権利はあるだろう?


本音をいえばあのとき辞めてもよかったし多分それが正解だと思うけれど世界のどこかに僕のことを犯罪者扱いする人間がいるのはなんか許せなかった。変な言い方だけれど僕は自分の正義を行使したかったのだ。僕がこうした経験から言えることがあるとしたら、ただひとつ。どんな境遇でもメゲないこと。ホントそれだけだよ。


 追い出し部屋の話はこれでおしまい。




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