Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

「ご飯にする?それともお味噌汁にする?」と妻がきいてきます。


結婚して丸二年になる嫁さんが、食事の前、僕に「ご飯にする?それともお味噌汁にする?」ときくようになって久しい。全体的に謎である。ご飯と味噌汁を二項対立のようにとらえているのも妙だ。ご飯が食事全体を指すのか、白米(炊飯済)を指しているのかもよくわからない。実際、僕が「ご飯」といっても「味噌汁」といっても食卓に並ぶ食事が変わるわけではない(代替の食事は用意されていない)。


 きっと、抽象的で深遠な意味が含まれているのだろう。全部言葉にしなければいけないというわけではないけれど、肝心な事ははっきりとした言葉にしてもらいたい。僕がいかなる答えを出したあとでも同じようにふふふと笑う嫁さんも正直不気味だ。2カ月間。ほぼ毎日。「ご飯がいい?味噌汁がいい?」→答え→うふふ、というやり取りは続いた。


耐えられなくなった僕は嫁さんに質問の真意をたずねてみた。すると「答えはあなたの心の中にあります」とジェダイマスターか、禅問答のようなことを言う嫁さん。俗物を自認する僕の心の中に、何か深遠なものがあるはずもなく謎と悩みは深まるばかり。第二のヒントを懇願すると「軍神、毘沙門天。塩」。全く要領を得ない。


結婚前後のメモや手帳を調べてみた。すると、謎との関係はわからないけれど、僕は嫁さんとひとつ約束をしていたらしいことがわかった。忘れられた約束。ご飯味噌汁問題を解決につながるかどうかわからないけれど、約束は約束だ。一度は守らなければならない。


「二人が出会った日の記念に時々指輪をプレゼントするよ」それが約束だ。僕は約束どおりペアの指輪を買った。出会ったのが何月何日かは忘れてしまったけれど。


 正解だったらしい。嫁さんは2カ月間続けてきた質問を今夜はしてこなかった。しかし「ご飯にする?味噌汁にする?」の質問の意味は知りたい。僕は訊いた。嫁さんは「ご飯と味噌汁が仲良くしてれば、オカズが不味くてもなんとかなるものです〜。ご飯と味噌汁。一方が欠けても定食は成り立ちませぬ」とあいまいな言葉で説明した。ご飯と味噌汁を夫婦にたとえて、夫婦関係の危機を伝える意図があったらしい。ご飯だけでもなく、味噌汁だけでもなく、両方。時に嫁さんの言葉は難解すぎる。FXのテレビコマーシャルのローラじゃないけど「ん〜わかんない!」。一方で僕にはわかっていた。曖昧なまま、意味がよくわからないまま、言葉を飲み込んでいくことが大事なときもあるのだと。


 「軍神。毘沙門天。それと塩は?」「上杉謙信は相手が欲しがってるものをプレゼントしたでしょ」。なるほど。然り。僕は今、嫁さんが食器を洗うカチャカチャという優しい響きのなかに、塩を運ぶ牛車の音を聞いている。その塩を届けられるのは僕だけなのだ。


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