Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

NO OPPAI,NO LIFE


 この文章は2007年3月1日に書かれたものを大幅に加筆し2013年の現在に蘇生させたものだ。言い換えれば、これは今の僕そのものだ。


物心ついたときにはピアノを弾いていた。1976年と印された、三歳の僕が鍵盤の前で笑っている写真がアルバムにあるので、遅くともそのころには鍵盤を叩いていたことになる。先生は、音大のピアノ科で教鞭を取られていた人で自宅を教室にしてピアノを教えていた。

致命的に集中力がない、決定的に練習が嫌いだった僕をあの手この手で鍵盤の前に座らせることに腐心し、成功していた。それは魔法だった。ささやかな僕の抵抗は彼女の魔法の言葉の前では意味を為さなかった。


たとえばこうだ。「フミオくん(6歳)の好きなものは?」「オッパイ!」「じゃあ鍵盤を先生のオッパイだと思って触れてごらんなさい」「先生のオッパイヤダー」「それならこの前レッスンで会ったマリナお姉さんのオッパイだと思って触るの」「触るー。黒いトコロはオッパイの先っちょだあ」 先生は大好きなお姉さんのオッパイを触ると思って力を抜いて鍵盤にふれなさい、とだけソファに座り、紅茶を飲みながら僕の下手くそなバイエルを聞いた。


そうやっていつも見事に先生にコントロールされて僕はピアノに夢中になった。今でも黒鍵に触れる瞬間は、乳首に触れるときのようにピンっと張り詰めた緊張感にも似た感覚が全身を駆け巡り、白鍵とくらべるとソフトに触れてしまうことがあるのはこのせいだ。

ピアノとオッパイについての僕の認識(1977〜1980)

「白鍵=乳首以外」 < 「黒鍵=乳首」


でも、これは間違っていたんだ。先生は魔法で僕を導いてくれた。


 何年か経った或る日のレッスン。先生はいつものようにお手本をみせたあとで紅茶をいれ、全ての鍵盤への意識を均一にして音の粒を揃えるように、と仰った。白黒の二色で構成された鍵盤は、ひとつひとつ独立した尊重すべきものであると。すべて愛すべきものであると。


 「アツコ姉ちゃんもマリナお姉ちゃんも大事にしなきゃいけないの?アツコ姉ちゃん意地悪なのに?」「そのとおり。フミオ君が大事にしてあげていれば、いつか優しさがアツコちゃんにもわかります。二人ともフミオ君の好きなオッパイがあるでしょう?オッパイは優しさの実なのよ」日に焼けたアツコお姉さんの小さいオッパイも色の白いマリナお姉さんの大きなオッパイと同じように愛せよと。先生はピアノを通して世界の在りよう、生き方、そして愛することを教えてくれた。アツコお姉さんの意地悪な性格は変わらなかったけどね。


式は書き換えられた。

【ピアノとオッパイについての僕の認識(1980〜2010)】

白鍵=黒鍵=世界=乳房 

 こうだ。


 「そっかぁ全部(のオッパイ)をアイさないといけないんだね!」「そうです。そのとおりです」僕がどんなに馬鹿なことを言ってもサボっても先生は優しかった。そんな先生とピアノの日々が何年か続いた。バイエル、ブルグミュラー、ソナチネ、ソナタ。中学、高校、大学。先生とのピアノの季節は終わろうとしていた。

 
 時は流れ僕は立派な中年になった。もうすぐ40になる。実家にあるビクター製のピアノはまだ現役だ。あの頃に戻るには鍵盤に触れてやるだけでいい。先生の魔法はとけていない。37で結婚した。僕にも守るべきオッパイが出来た。世界で一番大事な、世界よりも大事なオッパイだ。そして式は三十年ぶりに三たび書き換えられる。

【ピアノとオッパイについての僕の認識(2011〜)】

(白鍵=黒鍵=世界=乳房)<<<越えられない壁<<<妻の乳房


話は遡る。


 大学一回生、最後のレッスンのとき、先生が言った言葉はその後の僕の人生を決定付けることとなったのだ。



「あなたは強い人です。強い人は周りの人や世界に対して優しくしなければいけません」



 先生、天国から見てるかい。今も紅茶の香りがするだけでソファーに座った先生の姿が見えるような気がするよ。人に優しく生きてきたつもりだけど、僕は強くないから辛いことばかりです。アツコお姉さんもマリナお姉さんもお嫁にいってオッパイを触らせてくれなくなってしまいました。僕も結婚しました。けれどお嫁さんの人はオッパイを一度も触らせてくれません。先生知ってる?知らない人のオッパイを触るとオマワリサンに連れて行かれちゃうんだよ。最近はDVといってお嫁さんに触ってもオマワリサンに連れて行かれることがあります。生きていくのは本当に辛いことばかりです。また先生のレッスンを受けたいです。


僕にはわかる。先生ならたぶん紅茶を飲みながら「フミオ君、そういうときは大好きなオッパイをね…」なんて調子で40にもなる僕に魔法をかけようとするんだ。そして僕は、僕らは、オッパイの魔法の虜なってしまうんだ。いくつになっても。きっと。


ノーオッパイ,ノーライフ。僕の、僕らの素晴らしい人生は続いていく。


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