Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

出張の夜、意識が高いキャバクラ嬢と。

 ぽっちゃりというにはブーすぎた。出張先の安キャバクラで僕についたギャルのことだ。自らぽっちゃりとかファッションモンスターなどと詐称したうえ「女の子にも飲み物いいれすかぁ」と親しげに言い放つものだから「あ、別にいいでしょ」とやんわり断った…つもりだったのに「お願いしま〜す」、勝手にドリンクを注文してしまう。その不愉快な一連の流れのあとで、僕は、なぜこの生物がここまで増長しているのかについて沈思、ひとつの考えに至った。


 それはナンバーワンもブーも指名料が同じだからではないか。物の値が需要と供給で決められるのなら、なぜ皆が群がるナンバーワンとブーが同じ指名料四千円なのか。どれだけ努力しようと、あれだけ怠けようと指名料が同じならば怠ける輩がザクザク量産されてもおかしくないではないか。競争がなければ進歩しないではないか。だから社会主義国家は滅びた。僕は、レーニンの像が撤去されたり、ベルリンの壁が崩れるニュースを頭に思い描きながら、持論を述べ、それから「誰を指名しても値が同じなんておかしくね」と問題提起してみた。言外に、貴様の指名料が四千円なのはおかしいと含ませて。


 するとブーは「あたしは格付け社会の被害者で搾取されている」と不穏な発言。格差の話とか酒が不味くなるから避けたい。「誰に?」「店長と指名が多い女の子たち」「店長は搾取ってるだろうけど、ナンバーワンの女の子は営業努力してるだろ」「枕とか無理。マグロだし」耳に入れたくない情報をマグロの解体ショーの映像に置き換えてやり過ごし「格付けって?」と聞いた。ブーの言い分はこうである。


 《人間には役割がある。ナンバーワンが存在するのはナンバーツー以下のキャストが存在するからだ。それぞれに役割と仕事がある。搾取ってる店長以下の経済圏ではそれぞれが役割を果たして富を稼いでいる。この富はナンバーワンだけのものではない。搾取ってる店長を含めて全員のものである。従ってこの富は平等に分配されなければならない。ところが現実には分配がなされていない。社会主義国家に賄賂や不正が横行したように、枕ってる一部に富が流れている。私には富が流れてこない。つまり私は搾取されている》という面倒くさく、かつ、自分勝手な持論であった。酒がまずかった。東横インに帰りたかった。


 ブーは聞いていないのに店舗改革について語り出した。「これはケインズっていう人の考え方なんですけど〜まず店長をクビにして女の子に今の倍の給料を払って毎日水着イベントをやるんです。最初は赤字かもしれないけど毎日水着ならお客さんも増えてそのうちお店も儲かりますよ〜」という公共事業案や、「店長をクビにして全部を自由にすればやる気になるんだけど。指名料とか女の子が自由に設定して全部貰えるようにすんの。だったらあたし指名料二万くらいにしてお得意様だけでやってくんだぁ」と新自由主義的な案を出すので「淘汰されるだけだよ」と忠告すると「マジ?嬉しい」。どうやら淘汰の意味を知らなかったようである。酒が不味すぎた。


 時間が来たので帰ろうとすると、ブーが胸のあいたドレスで「だっちゅーの」ポーズをした。思わず怒張しそうになった僕は、自分の尊厳と貞操を守るために足を組み、尻とも足ともつかぬ小錦関の臀部を宙に描いた。


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