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Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

大腸検査でアッー!母なる大地をアッー!

日記
 あれほど綺麗に優雅に「肛門」と言える女性を、「水戸黄門」の由美かおる以外に僕は知らない。声の主は美しいナース。美しかった。美しすぎた。一瞬、ユーキャンで医療事務資格を取得したいと思ったくらいだ。もし、彼女に出会わなかったら、僕はあの検査を受けなかったかもしれない。
 
 話は遡る。
 
 僕は健康診断のいくつかの項目で「要検査」の診断を下されていた。特に大腸は早急に精密検査を受ける旨が診断書に書かれていた。
 
 大腸の検査には、内視鏡を入れる大腸内視鏡検査と、バリウムを入れる注腸検査の二種がある。僕と妻は、南青山のレストランで僕の肛門に何を入れるかについて話し合い、そして決めた。僕は、内視鏡を、入れる。妻と決めた。いや、妻が決めたのだ。妻はまるでカルトの教義を繰り返すように主張した。「肛門に入れるなら、絶対、黒くて、硬い、カメラよ。それしかないわ」。
 
 
 内視鏡検査の申し込みに行った病院の受付、そこに由美かおるレベルに綺麗に肛門と言えるナースがいて僕は彼女から内視鏡検査の説明を受けた。魔が差したとしかいえないのだが、僕は、その説明のあとに「注腸検査ってどんな検査ですか」と尋ねていた。
 
 彼女も注腸検査について個人的な思い入れがあったのだろう、内視鏡検査の説明はビジネスライクに済ませていたのに、注腸検査のそれは、「肛門からバリウムを注入してレントゲン撮影をします。肛門からは空気も入れて腸を膨らまします。前日から検査食を召し上がっていただいて、最後に座薬2つ、立て続けに肛門から入れていただき、しばらくして肛門から排便してから来院してください。終了後に下剤をお渡しするので体内にバリウムが残らないよう肛門から出し切るようにしてください」とコレラ熱にかかったように肛門を連呼した。
 
 その「肛門」がことごとく美しく、すっかり魅せられてしまった僕は注腸検査を申し込んでいた。
 
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 今回の件で家族と職場に心配をかけて大変申し訳ないと思っている。妻はマンションのリビングで僕の生命保険の契約と証書の在り処を一通り確認すると、テーブルに肘をつき、手のひらを組んでその上に軽くアゴを載せるお得意のポーズで「本当に心配…。私、喪主とかやるのイヤだよ……お葬式、お金を使わないようにするからね…」と言い、それからバスルームで子猫のように泣いた。泣いたのは僕だ。
 
 会社にも迷惑をかける。今は繁忙期真っ最中。会社はそれでも僕のサポートを約束し「大腸ガンだったとしても会社は無関係。自己責任。ウチに余裕はない。勤労に耐えない体なら去ってもらうしかない。自主的に退職してもらう」と言ってくれた。ありがたい。ありえねーの意味で。
 
 検査当日、僕は大きな問題に直面していた。座薬を二つ、たて続けに僕の未開発な肛門に入れなければならない。
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 私事で大変申し訳ないが40年の人生で初の座薬。学校で教わった記憶もない。妻に、おぼこいおぼこい僕の肛門の攻略を頼んでみたが「門ひとつ単騎で破れないとは情けない」とにべもなく断られた。不安が僕の頭をChoo Choo TRAIN冒頭の振り付けのようにぐるぐる回った。なんとしても入れなければ。僕は「座薬2つ。たて続け」を並列と勘違いしていた。間違っていた。

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 座薬の挿入が並列でなく直列で本当によかった。事前に気がついてよかった。意を決して座薬を入れる。布団の上でフルチン四つんばいになり、ひとつ、ふたつ…。じぇじぇじぇ!意外にも素養があったらしい、2両編成のChoo Choo TRAINはするっと小汚いトンネルに入っていった。座薬、超気持ちよかったことをここに告白しておく。
 
 検査前。また別の美女ナースに説明を受け、用意された穴あきパンツに着替え、注射を打たれた。印象に残っているのは病歴について尋ねられ、男性機能を喪失しているので回春クリニックに通い、バイアグラを服用していると告げたときにナースが見せた冷たい目。あれがかの有名な「養豚場のブタでもみるかのように冷たい目」なのかもしれない。
 
 僕はレントゲン機械の前に立った。遠隔操作で寝台が動く。振付師の真島茂樹似の先生が「ハイ。肛門から管をグサッといきますからねー」と言うや否や、手慣れた手つきで僕の肛門を瞬時に探り当ていきなり管を挿入。痔ぇ痔ぇ痔ぇ!あっけなくアナル喪失。妻にいじられたことはおろか見られたことすらないのに…。想定外の快感に声が出そうよ。「よ」ってキモいオカマみたいだね。
 
 勃起の予感がした。前門の虎、肛門の狼。おっさんの手で肛門に管を突っ込まれてEDが完治したら妻にあわせる顔がない。僕は凄惨な光景を想像して快感をごまかすことにした。「マリーアントワネットのギロチン処刑」。なぜか興奮はおさまらなかった。性癖が歪んでしまったらしい。
 
 先生は「お腹の中で風船が膨らむからねー」と軽い口調で予測不能な事態の到来を予告。直後、引いては寄せる便意と快楽のなか、肛門の奥底で蕾が膨らむのを僕は感じた。新たな快感に声が出そうになる。液体が注入されていく感覚は、僕に火砕流に飲み込まれる古代都市ポンペイのイメージを喚起させた。僕の一部もポンペイのように滅びたのかもしれない。
 
 「我慢してねー」先生のどことなくゲイテイストな声のなかで僕は目を閉じた。決して悦楽の喘ぎ声がこの口から漏れませんように。汚物が下の口から漏れませんように。そう祈りながら。腸を膨らまされて僕は母になることの大変さと妻の苦労を少し実感した。まだ見ぬ我が子の存在を意識した。はっきりと。
 
 まだ見ぬ我が子との邂逅を遮るように、レントゲン台は動き、僕は先生の指示のまま四十八手をキメるように動いた。「腹這いから左側から回ってハイその角度で息を吸って吐いて〜ソコォ!」「今度は仰向けからこっち向いて吐いて〜ソコォ!」「ソコォ!」「ソコォ!」…未知の快感に痺れながら、粗相しないように、我が子いわゆる大便が飛び出さないよう耐えていた僕の腹を機械のアームが押さえつけた瞬間、僕の網膜の上で火花が散った…ソコォ!ソコォ!…残響。
 
 結果は即日出た。帰宅して妻に報告する。
「肛門から管を入れられたとき、君がいつも話して聞かせてくれる新しい快楽の世界がはっきりと見えたよ。そこには君がいたよ。子供もいたよ。それで検査結果なんだけど…」「検査結果なんてどうでもいいの」妻は「劇場版TIGER & BUNNY」のパンフレットから目を上げ、春の息吹のような穏やかな声で僕の言葉を遮ると「キミが肛門に入れられたとき、何が起きたのかを出来るだけ詳しく聞かせて。ムッハー!」と続けた。
 
 いつか…いつの日か、僕の腸の奥で芽生えた快楽の蕾は群れとなって肛門から溢れ出す。蕾はやがて見たこともない花となり、男色の匂いを撒き散らしながら地上を埋め尽くす。鮮やかな色彩に染められた世界を三つの人影が歩いていく。僕と妻、そして子供。手を繋いで歩いてゆく… そんな、六道とも四聖とも違う、美しい新世界の予感を前にした妻が僕の検査結果のような些細なことを忘れてしまっても仕方ないこと。そんなふうに僕はポジティブにとらえている。