Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

業界の底辺ですき家を嘆く

飲食・食品業界の片隅に身を置いている僕にとって、牛丼チェーン「すき家」の多くの店舗が「パワーアップ工事中」と称して閉店している騒動は他人事ではない。
 
 噂によればパワーアップは人員不足と新メニュー導入が原因で、背景には低賃金・重労働というブラック企業体質があるという。もちろん3月という時期が人が集まりにくいこともあるだろう。
 
 
 けれども、今回のパワーアップの原因が現場で働く従業員の低賃金・非正規社員といった待遇に原因があるというのはちょっと違和感がある。元々、外食業界の現場スタッフが正社員抜きの体制で構成されていたり、賃金が低く抑えられているからだ。実際、僕の課長手当は一万八千円(年額)だ。そういう犠牲があるからこそ数百円でそれなりの食事が食べられるのを忘れてはならない。数百円の牛丼を食べて従業員から搾取するとき、僕らの魂も搾取されているのだ。
 
 
 外食業界ではどこも労務費・食材費の削減に苦労している。労務費を下げるためには課長手当てなどを一万八千円に抑える以外にも、提供のやり方を変えるなどの様々なトライや工夫が必要で、たとえば、あまり知られてないかもだけど流行のバイキングも労務費抑制の手段だったりする。バイキングは大皿で提供し、お客様がそれぞれ好みの料理を好きなだけとるスタイルだ。お客様からみると一定料金でいろいろな料理を好きなだけ楽しめるスタイルだ。
 
 
 提供する側からみれば、盛り付け工程の省略、使用食器の減による洗浄工程の圧縮、セルフサービスによる配膳の手間の削減、など、労務費削減につながることばかりである(もちろん発注・調理等食材コントロールの点で難しい面もある)。ウィンウィンなのである。
 
 
 一方、パワーアップの元凶のひとつとされているすき家の新メニュー牛すき鍋定食はウィンウィンになっていない。御椀、汁椀、漬物皿、玉子小鉢と使用食器が4つで牛丼の4倍、鍋の中身も牛肉+ネギ+ウドン+木綿豆腐他となっており鍋への盛り付け工程も増している。牛丼の具を穴あきお玉ですくってかけるだけの牛丼と比べるまでもない。もちろん下膳・洗浄工程も増加。これは大変だ。
 
 
 牛丼チェーンが普及したのは調理工程が楽だからだ。「食品工場で調理加工された牛肉を店舗で開封し提供するだけ」「丼なので盛付にそれほど気をつかう必要がない」。牛すき鍋は現場サイドに対する負荷が大きくなってなっているのはもちろん、従来の牛丼チェーンのノウハウと相反するものなのであり、うまくいかないのも仕方ない。すき家については、元々メニューが多いとかテーブル席までの配膳が必要とか導線が悪いとかいろいろあるけどね。
 
 
僕は今回のパワーアップ工事騒動の原因は4月からの牛丼値下げにあると考えている。そしてパワーアップ工事中はストでもなんでもなくアルカトラズからの脱出だと考えている。ストっつーのは労働条件などの改善を求めるものだけど、パワーアップ工事中はそういった要求はないので。元々キツイ仕事が新メニュー導入でテンパってる状態、加えて4月からの牛丼を値下げによる客数の増加による地獄を予想したスタッフが逃亡したものだと考えている。残れば残るほど地獄。我先に!という状況。要するに牛丼という売り物を¥という価値でしか見出せなかった経営トップの考え方こそが元凶なのだ。僕はそれこそがブラックの根本だと思う。
 
 
 ふと思ったのは、外食業界は正社員がいない!ブラックだ!と非難することは、仕事の中身を検証する前に¥を見るという意味ではブラック企業の経営者と変わらないのではないかということ。大事なことは目前の商品・サービスを検証していくこと。牛すき鍋についていえば、従来の現場での業務・工程に対してどれだけの仕事量が増すのか、値下げによる影響etc。
 
 
いずれにせよ一人の飲食業界に身を置く者として今回のすき家の件の推移を静かに見守っていきたい…。と思うことはまったくなく、ていうかここまで長々と書いて申し訳ないけど僕にとってはどうでもよく、牛丼チェーンのようなジャンクな食べ物を好む人だけが注視していればよろしい。私事で恐縮だが、管理栄養士及び調理師免許をもつ妻による栄養バランスを考慮した、手作りでおいしい食事とお弁当を食べている僕にはまったく関係のない話なのである。
 
 
 是非とも、ブラック企業のすき家には壮烈に倒産していただき、一人でも多くウチにアルバイトとして採用される人間が増えウチの現場が安定し、僕の課長手当が一円でもアップすればそれでいい。