Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

個室ビデオと私 または私は如何にして個室ビデオの常連をやめXEVIOUSを愛するようになったか

一時期とはいえ僕が個室ビデオの常連に墜ちてしまったのは全部警察のせいである。
 
僕は生まれつき絶頂時の声が大きく、妻のいる居宅で自由を存分に行使することなど到底出来なかった。苦肉の策で車でアダルトDVDを楽しむことにした。夜、海岸沿いの公園に停めた車の中でなら誰にも邪魔はされない。それは結婚と引き換えに僕が喪った自由と権利を行使出来る、いわば自治領だった。
 
あの運命の夜も僕は公園に停めた車の中でエキサイティング。突然、締め切った窓を叩く音がした。若い警察官だった。懐中電灯が眩しい。バックミラーの中にはパトカーがいた。光の中で僕は警視庁24時のようなドキュメントに顔にモザイクをかけられて出演する自分の姿を想像して白い灰になりかけた。
 
若い警察官の声。「大丈夫ですかー」懐中電灯が車内を照らす。なぜか安否不明な僕ではなく車内を満遍なくサーチするように動く懐中電灯の光。不幸中の幸いなことだがエキサイトシーンは終わっていた。モニターには家族団欒をする若い夫婦と年老いた義父の姿。山田洋次監督作品に見えないこともない。吉永小百合なんだ彼女は。サユリストなんだ僕は。
 
窓をあけた。警察官の声がクリアになる。「大丈夫ですかー?どうかしましたか?」家で見られないエキサイティング映像を車の中で見てましたーと言えるはずもなく、疲れたので休憩していた、邦画を観ていると落ち着くんですと嘘をついた。警察官は、いくつか質問をすると(その間にも家族団欒の映像は不審な方向に向かっていたので気が気でなかった)、心底心配するような調子で「大丈夫ですか?このあたりは物騒なので早めに帰ってください」と言い残すとパトカーに帰っていった。若い警察官に申し訳ない気持ちになってしまった僕は車でエキサイトするのを止めようと誓った。
 
とはいえエキサイトする場所は必要だ。そこで個室ビデオ。個室ビデオはご想像の通りの場所だった。セレクトした6本のDVDをカゴに入れてから、受付を経て、個室でワンオペ・ハッスルするだけ。しかもリーズナブル。最初、ビデオレンタルのアダルトコーナーより切迫感があって刹那的すぎると思えたDVDコーナーすら、時間の経過と共に競技的に楽しめるようになっていった。6本の作品を5分で選ぶ…そんなノルマを自分に課すようにして。マジックミラー号。キモメン。ギャル自宅訪問。ドラフト会議と同じで上位はすぐに決まるが下位を選ぶのがなかなか難しかった。他の、目を皿のようにしている客は悲しくなるのでなるべく見ないようにした。そんな男の欲望の城たる個室ビデオで一度だけ、白いワンピースの若い女性がカゴを持っていたのを見かけた。彼女は何だったのだろうか?
 
個室の壁が若干薄かったのも興奮に拍車をかけた。壁は薄かったけれどそこに集う戦士たちはお互いの距離感を保って己の戦いに集中していた。それは近づきすぎるとお互いを傷つけてしまう、ヤマアラシのジレンマのあらわれだったのかもしれない。
 
何回か臨時の隣人から壁を叩かれた。そのたびに僕は自分のアクメ声が大きさを反省しつつ壁を叩き返したものだが、今になって振り返ってみると、あれは今流行りの壁ドンだったのかもしれない。いずれにせよ個室ビデオは楽しい場所だった。
 
個室ビデオとの別れは突然だった。あの日。青いキャンディー知ってるかい!と「ふしぎなメルモ」の主題歌を歌いながら青いバイアグラを服用した僕は、体調がよろしすぎて効果てきめん、いつになくエキサイトしてしまった。声は溢れ続け、壁ドンは僕を応援する太鼓のように打ちつけられ続けた。あまりのエキサイトに僕はフラフラになり個室にメガネを忘れてしまった。
 
翌日、忘れた眼鏡を取りに件の個室ビデオを訪れた。受付の若者にメガネを忘れた旨を伝えようとして、ああああっと僕はアクメ声のような驚きの声をあげてしまう。目の前の若者は僕ののメガネをかけていた。若者が「ちょうどぴったりだったので」と理解不能なことを言うのも薄気味が悪かった。これが本会員にならなかった報いなのかもしれないがとにかく不気味だったのでそのとき以来個室ビデオには足を運んでいない。僕にはまだ帰る場所、XEVIOUSによく似た名前の動画サービスがあるから。
 
いつか僕に子供が出来たら個室ビデオは魔境だと教えてあげようと思っている。そして彼は父親が見つけられなかった白いワンピースの女性を百合の花が咲き乱れる魔境で見つけることだろう。
 
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・「かみぷろ」さんでエッセイ連載中。「人間だもの。」 (http://kamipro.com/blog/?cat=98
 
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フミコフミオの夫婦前菜 ( http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1526