Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

まだ海岸で消耗してるの?

 
もし、あなたが突然、会社のトップから海の家の店長をやるように言われたら…どうしますか?急な海の家店長。勤め人なら誰にでも起こり得る事態。しかし海の家ノウハウは驚くほど世に出回っていない。途方に暮れる人がほとんどだろう。このままでは皆、海岸で消耗するだけだ。そこでこの夏、実際に東海地方の海の家で過ごした僕が身を削って得たノウハウをご紹介する。なお、この文章はあくまで僕の好意によるものなので、何卒何卒感情的にならないようお願いしたい。
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1「とりあえずパクろう」
 
最初からパクれとは何だと怒る方もいるかもしれないが、海の家に対して熱い思いや特別なポリシーやコンセプトがないかぎりとりあえず繁盛している店の運営をパクるのがベスト。海の家にオリジナリティを望んでいる客はほとんどいない。望まれているのは日陰と空席。海の家は季節商売。コンセプトを考える時間があるならパクリに費やすべき。しかし、現代はパクリがありふれているからといって直球で「パクリまーす」と宣言したり「パクッて何が悪いの?」と開き直るのは、ネット炎上で一時的に注目されるかもしれないが、最終的にはバカにされたり、ビジネス的な信用を失ってマイナスだったりと散々なのでやめよう。オマージュ、リスペクトなど使い勝手のいい言葉を使って巧みにオリジナルからの追及をかわそう。うまくいけばオリジナルから助言ももらえるぞ。
 
2「焼きそばをメインに売れ」
 
食材の話。海の家の価格設定って強気。焼きそばなんかは500円~。実際問題海の家の食事はどれだけ食材をかけているのか。ウチの海の家の焼きそばは700円。食材は、もっとも安い調理済み冷凍焼きそばでキロ90円。1キロで3食取れるので一食30円強。人件費と経費を抜いてもウハウハだ。時々、都会から地方に移住した人が「安く食材を手に入れられた。都会ではなかなかこの値段では手に入りませんよー」とはしゃぐのを目にするが、はっきりいってリサーチ不足。昔と違って個人でも安く業務用食材が手に入るので地方も都会も言うほど差はないのが食品業界に携わる僕の実感。実際、県名は控えるけど砂丘のある県などの食材の価格はそれほどエコノミーではなかったしね。それに、なかなか手に入れられない値段の食材をどれだけの人に提供出来るの?って問題もありますしねえ…。皆さんには来年の夏も変わらずにウハウハな焼きそばをオーダーして海の家を潤してもらいたい。
 
3「イカ焼きは避けろ」
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イカ焼きは美味しいけど避けたほうがいい。仕入れに手間がかかるのもあるけど、どれだけ大きなサイズのイカでも火を入れると悲しいほどダウンサイジング。苦労したうえ女性に「小さい…」と呟かれるのは男子なら避けたいところ。数少ないメリットはイカを仕込んだ手の匂いを女子高生バイトに嗅がせて「イカくさーい」と言われるくらいだろう。
 
4「女子高生バイトと仲良しになれると期待するな」 
 
海の家といえば学生バイト。そこで女子高生と仲良くなれるかもと期待するのは仕方のないこと。しかしそれは幻。仕事に集中し、ともすれば集中力を欠くことの多い女子高生にはキツく当たるべきだ。なぜなら女子高生バイトはすでに格好いいライフセーバーや同僚の大学生バイトと親密になっている。実際、僕は女子高生バイトとLINE友達になったがメッセージは既読スルーされ続けた。女子高生の実体を知りたいと思ったら、「バイト代の支払い」などマネーについてのメッセージを送るといい。驚くなかれ。それまで散々既読スルーしてきたあいつらは金の話題となると数秒のうちにレスポンスしてくる。彼女たちの目には金しか映っていないのだ。我々大人に求められるのは強い気持ちだ。たとえ、「海の家のみんなと」というキャプションと共に女子高生バイトのフェイスブックにアップされた画像が、トリミング処理で僕だけがいないことにされていても動じない…ような…強い…気持ち…。
 
5「冷凍ものを使っていると公言しよう」
 
そもそも海の家みたいな飲食店に調理技術なんて必要なんでしょうかねえ…?「まごころ込めて仕込み中」と看板や貼り紙を出す飲食店のうちいったいどれだけのものがまごころを込めているのといいたいわけです。とある焼き鳥店、まごころ込めて仕込んだはずの焼き鳥がウチの海の家で出している冷凍もの焼き鳥と同じものだったとき、どんな顔すればいいかわからなかった。ましてや海の家。「海などどうでもいい。僕は私はあの海の家の食事を食したい」という人は皆無だ。それならばいっそ「ウチは冷凍もの出してます」とカミングアウトして客の期待ハードルを下げることだ。冷凍なら…と諦めてクレームも少なくなるし、うまくいけば、「えー!ウッソー!こんなに温かいのに冷凍なんてありえなーい」という上質な客にも出会える。何よりマネタイズですよ。マネタイズが何なのかよくわからないけれども。
 
 
6「アイスクリームヤクザには気をつけろ」
 
ギョーカイのルールなのか、たまたまその業者がアレなのかわからないがアイスクリームの仕入れは気をつけよう。というのも僕が契約したアイス屋は週に何回か納品に来るのはいいのだが、勝手に冷凍ストッカーに商品を入れていってしまう。売れ筋を入れるとかいってね。こちらがホームランバーを頼んでも、足元をみてるのかナメてるのか知らんが、違うものを入れていく。今夏の急激な冷え込みは記憶に新しいところだけど、それでも毎週やってきてはストッカー一杯にアイスを詰めていく。寒いから売れない。最悪なのは勝手にストッカーに詰めて売れ残ったアイスまで請求を起こしてきやがったこと。現在、鋭意交渉中だけど、まとまらなければ二百個のアイスを自腹で買うしかない。皆には気をつけてもらいたい。クソが。
 
以上。これが海の家成功の秘密である。来年の夏は、一人でも多くの人が会社を辞め、海岸で旗を立てて生きる生き方を選ぶことを祈念しつつこのへんで筆を置こうと思う。冒頭に感情的にならないようと言っておきながら、途中感情的になってしまい申し訳ありません。ではまた。
 
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フミコフミオの夫婦前菜 ( http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1526