Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

超優秀な部下が会社を革命しはじめた。

 「チャンスをピンチに変えた数で男の価値は決まる」そう仰っていた部長(故人/無縁仏)なら今の営業部を何と評するだろう。チャンスだろうか。ピンチだろうか。
 
 研修を終え今月から配属された超優秀な部下のおかげで革命的に仕事が捗っている。仕事は数字だ。新しい風が吹き、新規開拓数(訪問件数/テレアポ数)はここ10年の月次で最高値を記録、人手不足で滞りがちだった事務処理も円滑にこなされている。他部署からの我が営業部に対する見方や陰口も、かつては、お荷物、壊し屋、営業インポと厳しいものが多かったが、オマケ、役立たず、害虫と、いくぶん柔らかいものになってきたようだ。
 
 気持ちよく仕事が出来ているのが大きい。恥ずかしながら有史上、我が営業部においてまともな人間関係が形成されたことはない。日本語がわかっているのか疑わしい上司。己がわかっていない自称必要悪な部下。彼らが巻き起こす数々のテロ行為。そんな彼らとの忌まわしい過去、人間関係形成のしくじりは、肛門の奥で溶けきっていない座薬のようなしこりとして僕の中に在り続けている。今は違う。超優秀な部下のおかげで、チームというか、バディというか、そういう連帯感に溢れている。その土台は部下が僕のことを人間として認め、課長としてリスペクトしていることだ。41年の人生で一度も褒められたことのない僕が、今、生まれて初めて尊敬されている。忌まわしい過去はもうOWARI。コングラチュレイション、グラチュレイション、グラチュレイションなのだ。
 
 超優秀な部下の仕事ぶりには感心させられるばかりで、その低姿勢は学ぶところも多い。テレアポを頼めば「課長…まだ配属から日も浅く自信がありません。手本を見せていただけませんか」と返してくるので、リスペクト慣れしてない僕は虚をつかれたように「お、おぅ…」と言うしかない。電話を終えると「さすが課長…もしもしの一言で引き込みますね…」といい、ノートに気づいた点をメモ。この会社でメモを取る部下を僕ははじめて見た。優秀すぎる。飛び込み営業に連れていき、いざ、やらせようとすると「課長~、まだこの業界に入ったばかりで経験がありません。会社の看板をキズつけては申し訳ないので、ひとつ、課長のやり方を見せてください」と申し訳なさげに言ってくるのでリスペクト慣れしてない僕は「お、おぅ…」と言うしかない。一仕事終えれば「凄い…課長レベルに達するには何十年必要だろうか」とリスペクト発言、そして気付きをメモ。
 
 得意先に同行させようとすれば「課長…私は自爆事故以来、運転を数年やっていません。課長のドライブテクニックを見せていただけませんか」「課長~。私は電気自動車ははじめてなので」とか何とかいうのでリスペクト慣れしてない僕は「お、おぅ…」といって部下を乗せてハンドルを握るしかなくなる。さすがに縦列駐車をキメただけで「課長はF1レーサー顔負け」というのはお世辞が過ぎだろうが。又、書類仕事をやっていると、仕事に対する真摯な姿勢からなのだろうね、疑問が生じる都度、「課長…質問があります」「課長~保存したはずのエクセルのファイルがありません」と声を掛けてきて、そのたびに僕は仕事を中断し対応。その結果、僕は残業、部下は定時。仕事を落とすと教育と実務、倍になって返ってくる。人に教えるって素晴らしいけど難しい。
 
万事そのようなリスペクトに溢れた環境なので、僕も大変に気分がよく、ここ1ヶ月ほど「課長…」「課長~」の声に押されるように、僕が電話をかけ僕がアポを取り僕が飛び込み僕がハンドルを握り僕が出張の手配をし僕が飲み会の予約をしている。超充実。これほど追われるように死に物狂いでイチ営業として動くのはおそらく新卒のときと、研修期間で過大なノルマを押し付けられて3日で逃亡した太陽熱給湯ビジネスの営業以来で新鮮。そして必死に活動した結果が過去10年で最高値。皆がハッピー。社長からもお褒めの言葉をいただいた。「その調子で頑張れ」  今、営業部はサイコーなんだ、ベストなんだ。ワンダーなんだ。
 
 超優秀な部下がメモ帳に使っているA6ノートが落ちていた。僕の仕事ぶりや気づきが記されているノートだ。拾う際に中身が見えてしまう。??パラパラとめくってみる。おかしい。老眼が進行しているせいで、ぎっしりメモされているはずのものが白紙に見えた。疲れもあるに違いない。これはチャンスなのか、それともピンチなのか…わからない。僕はノートを部下のデスクに置いてから自分のデスクに戻り頭を抱えた。部下の声が聞こえた気がした。見ているか…部長…。あなたを超える逸材がここにいるのだ……!「課長…」「課長~」それも……2人も同時にだ……部長…。