Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

死んだ父の愛人に会いに行った。

 父に愛人がいたかも。そんな話を聞かされたのは父が死んで数年が経ったころだ。その頃の僕は二十代半ばの社会人なりたてで給料も低く、携帯の料金や車のローンを支払うだけで精一杯の現実にいたものだから、愛人をリアルなものとして受け入れるのはちょっと難しかった。それを僕に教えたのが母で、ゲラゲラ笑いながらの情報提供もまた、現実離れに拍車をかけていた。

 

 父は若干チビ微妙にデブ確実にハゲというマイナス要因を差し引いてもイケメンの土俵際に踏みとどまっていた。父のダニー・デビートのようなイケメンぶりを認めてはいても、愛人については本気に受け取っていない母であった。当時、母の余裕の理由がわからなかったけれど、今、父の年齢にあと数年で追いついてしまう僕には、父の遺伝子を引き継いだ僕にはわかる。多分、当時の父は僕と同じように不能だったのだと。


 それよりもずっと昔。父は幼い僕に1枚の写真を見せながら人生を楽しみたいのなら先ずはそのときその瞬間を楽しむことだと言った。写真には顔の北半球をバットマンのような黒いお面に覆われた、上半身裸の父がいた。両サイドには派手めなギャル。父の楽しんでるって感じの笑顔。その瞬間を楽しめ!変態クラブからの言葉には説得力がありすぎた。
 
 こんな秘密のやり取りがあったので、僕は父の愛人の話をリアルなものとして受け入れられずにいる一方で100パーセント偽情報とも思えなかった。休日を利用して愛人と思われる女性に会いにいった。当該女性は父の事務所があった建物の上に住んでいた。父の事務所は保険の代理店か何かに様変わりしていた。そのとき。神の意志だろうか、女性がエントランスから出てきた。この人が愛人だとすぐにわかった。
 
 なぜその女性を父と関係があった女性と判断出来たかというと、女性が連れていた幼い女の子だ。女性に手を引かれていた3歳くらいの女の子はトリンドル玲奈さんを幼くしたような外国(欧州)を感じさせる容貌をしていて、同じように外国(比国)を感じさせるパッキャオ似の僕には一瞬で血の繋がりがわかった。この子は僕の妹。僕は人生を賭けてでも、手を繋いで歩いていく母娘の世界を壊してはいけない、守らなければならないと強く思った。思いは強かったけれど母娘は間もなく引っ越してしまい、僕のテンションも下がってしまった。
 
 20年が経った。愛人はオバハンになり、女の子は美しい大人の女性になっているだろう。オバハンはどうでもいいとして妹だけは守らなければならない。たとえ本物の兄妹にはなれなくとも、僕はバットマンの息子、ダークナイトなのだから。そんな義務感と責任感から、夜の街を彷徨っているときはいつも視野の片隅で妹を探している。妹がダークサイドに堕ちてしまわないように、堕ちてしまいそうなときに手や足やその他の体の部位を差し伸べられるように、祈りながら。その祈りが叶わないのなら、せめて僕が妹の初めての客になってやろう。道徳や倫理とかは脇に置いて、そのときその瞬間を楽しむしかない。そんな強い覚悟を持って生きている。「お兄さんココ初めてー?」そして兄になる。