Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

悪魔城キャバクラで遊んでみた。

 ドラキュラとキャバクラは似ている。この類似を発見したとき、僕は、己の天才に震えた。「悪魔城」を冠詞のように載せてみれば、発見に天才を要しない。悪魔城ドラキュラと悪魔城キャバクラはまるで一卵性双生児のようだ。

 

 語感だけではない。ドラキュラがお嬢様から血を吸うように、キャバクラはお財布から金を吸い上げる。悪魔城ドラキュラも悪魔城キャバクラも端的に表現すればハートを集めるゲームだ。悪魔城キャバクラでうまくプレイすれば、悪魔城ドラキュラと同じように女の子とムチやローソクで遊べるし、あわよくば聖水もゲット出来るかもしれない…。このように一度燃え上がってしまったキャバクラへの熱い思いを鎮火するのはひどく難しい。さらにハロウィンのムードが僕の背中を後押しした。


「セクシーハロウィンナイト!」というポップなフォントと共に描かれたカボチャと悪魔のイラストポスターからは、コミカルながらもどこかゴシックホラーの香りが漂っていた。ずいぶん久しぶりのキャバクラであった。一年ぶりだろうか。万感の思いを胸に扉を開け飛び込んだ瞬間、「いらっしゃいませー」という声と共に待ちかまえていたごっついモンスター軍団が目に飛び込んできて、僕は帰りたくなってしまう。スゴイや。悪魔城は本当にあったんだ!悲しいかな、悪魔城ドラキュラは一度ジャンプしてしまうと操作出来ない。そして僕は鞭も持っていない丸腰だった。

 

 僕の知っているキャバ嬢は誰もいなかった。一年のあいだに店自体が変わっていたらしい。女の子のハロウィンコスプレといえば、パンプキン、悪魔ちゃん、ミニスカポリス、サド看守をイメージしたファンシーかつガーリーなものが一般的なはずだ。だが僕についた嬢はなぜかフンガーフンガーフランケン。本名フランケンシュタイン。ペットボトルのフタを黒マジックで雑に塗ったものを、ネジに見立て、コメカミに付けただけのチープなコスプレに泣きそうになる。

 

 チープなわりに立派にフンガーフンガーフランケンしているので「特殊メイク凄いね」と誉めると「ほとんどノーメイクなの」と不気味におどけるフランケン子。聞かなきゃ良かった。僕はいつも知らなくていいことを知ってしまう。元カノの結婚や出産、ホールブラザーズのツイッターアカウントとか、そういう類のものだ。フランケン子以外にもう一人、おかっぱ頭の日本人形コスプレの女の子が席についた。「人形は顔が命」方面の凛とした美しさのあるドールではなく、薄暗い蔵の奥で知らないうちに髪が伸びてる系の不気味なドールだった。早く帰りたいと心の底から思った。

 

 フランケンが「女の子にも飲み物いいですか~」と女性みたいな声で言う。僕はなるべく金をセーブしようと決めていたので、一杯飲んだら帰るから、それまで水でも飲んでなさいと伝えたら、お願いしま~す!と男性スタッフに声をかけ伝票になんらかの文字を書き込んで水割りをがぶがぶ飲み始めるフランケンと日本人形。超きっつい。日本語って難しい。


「このハロウィンコスプレ超可愛くない?」フランケンが両手を前に突き出していった。フランケンシュタインとしては合格だが僕が望んでいるものではなかった。僕は何もいわずにお酒をあおる。可愛い。kawaii。諸外国に対するリードを失った我が国。国が率先してこのようなものをクールジャパンとして売り込むから、勘違いという種子が撒かれ、悲劇の花が咲くのだ。僕はアルコールで痺れながら、安倍内閣ときゃりーぱみゅぱみゅさんを憎んだ。

 

フランケンが「ハッピーハロウィ~ン」「フォー!!」と渋谷の若者のように騒ぐのを僕は眺めながら静かに時が過ぎるのを待った。フランケンが僕の手を握ってきた。女の子に触られたはずなのにまったくトキめかなかった。以前、タッチ厳禁のお店で、女性の手に触れたときのことを思い出してしまう。あのとき、ナイトのように飛び出してきた男性スタッフとキャバ嬢たちが僕を取り囲み「ルール!」「ルール!」の大合唱が起こったのだった。しかし、フランケンが僕の手を握っているのに飛び出してくるナイトはいない。ハロウインナイトにうごめくモンスター、悪魔城キャバクラ。僕は逃げるようにトイレに駆け込んだ。用を足しながら、「あっ聖水」と呟いてみた。虚しかった。日本人形は一言も発しなかった。髪を伸ばすのに忙しかったのかもしれない。地獄中の幸いは、ただひとつ、悪魔城キャバクラでハートをゲットしなかったこと、それだけだ。

 

悪魔城キャバクラ探索はすぐに妻に知れることとなった。スーツのポッケから名刺とフランケンと撮ったツーショット・チェキ(有料)が出てきてしまったのだ。僕は十字架磔の刑を覚悟した。しかし、チェキを一瞥した妻はひとこと言っただけであった。「情けない。もっと…いいお店にいけばいいのに」《超訳・あなた、わざわざお金を払ってフランケンと遊んでいて恥ずかしくないの?クソが!》なんという屈辱だろうか。ふたたび、このような辱めを受けるくらいなら、僕は、ローソクと聖水で責められながら鞭でぶたれるほうを選ぶつもりだ。

(この血塗られた文章は25分で書かれたものである)