Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

仕事とは嫌われることと見つけたり

 紗栄子が好きだ。どれだけ嫌われても挫けない彼女の強さが好きだ。いいトシしたオッサンってこともあるけど、僕は、無理に人に好かれたいとは思わない。それでも人に嫌われてしまいそうなときは、求められてもないのに下着姿になったりセレブと浮き名を流したりして死ぬほど嫌われても挫けない紗栄子の強さを想い、「しょうがない」「ケセラセラ」とやりすごしている。

 

 今、僕は本職の営業以外にうまくいっていない事業所の立て直しを任されていて、これまで付き合いのなかったスタッフと仕事をするようになった。ストレスフルな毎日だ。労務費の予算超過が問題になっている事業所があった。ほとんどパート化されているその事業所は、開設以来、所定労働時間の超過が常態化していたのだった。予算未達を理由に本社の評価は著しく低かった。パートさんは近所のおばちゃんたち。「仕事は水仕事が多いし忙しいし残業はイヤだけど、頑張る」ととびきりの笑顔で言ってくれる彼女たちに、僕は深く頭を下げた。現場を殺すわけにはいかない。頭を下げながら、嫌な顔も見せずに働いてくれている彼女たちに誓った。絶対に彼女たちが年老いて体が動けなくなるまで働けるような良い職場環境をつくろうと。

 

 僕は数日間事業所に張り付きパートさんの働きぶりを観察して、業務と作業工程を見直し、無理無駄ムラを徹底的に省いた。その結果、パートさんの残業をほぼゼロまで減らすことに成功した。「みなさんはもう残業をする必要はございません!」朝礼での僕の言葉に破顔一笑するパートさんたちの顔。顔。顔。今の仕事の中で数少ない、やりがいを感じられる瞬間だった。僕は一生忘れないと思う。

 

 あれから一週間。今日、その事業所の様子を見に行った。無理無駄ムラがない作業の流れに僕は満足した。パートさんたちは皆、生き生きとしていて、チームワークは前よりも良くなったみたいだ。パートリーダーおばちゃんに話を聞く。彼女はこれ以上ないくらいの笑顔で「課長さんが余計なことしてくれたので、残業代が貰えずに皆困っているんですよ」と言った。

 

 ………今、何と?彼女たちの笑顔、生き生きとした動きは、僕への「当てつけ」「嫌み」。反課長で一致団結しているらしい。うっそー。きっつー。もしかして賃金を稼ぐためにダラダラ仕事していたの?そんな嫌な考えが浮かんでくる。そういえばちょっと前にパートさんが「値札貼りの業務が大変」と言うので手伝おうとしたら「私の仕事を取らないで!」とヒステリックに絶叫されたことがあった。あのときは更年期大変だなーという感想しか持たなかったがマネーの問題だったのか…。

 

 そういう経緯で僕はその事業所のメンバー全員から嫌われてしまった。彼女たちからみれば僕は本社からやってきた疫病神。はっきりいってパートのおばちゃんにどれだけ嫌われても一向に構わない。嫌われたり疎まれたりすることを極度に恐れていては何も出来ないと僕は思う。必要以上に好かれる必要もないし。軋轢オッケー。議論オッケー。わかりあえやしないってことだけをわかりあえばそれでいい。

 

 改善の結果、僕とこの事業所は上層部から一定の評価を受けた。パートさんたちにも開設以来はじめての賞与も支給出来る見込みだ(微々たる額だけど)。それを知らせるために訪問したのだけれど、僕は何も告げずに退散した。人の顔色や機嫌を伺うだけの仕事はやりたくないからだ。そのためなら嫌われたままだって別に構わない。しかし…。このままでは精神がもたない…紗栄子…私を導いてくれ。

(このソウルフルな文章は時間調整待機中の17分間で書かれたものである)