Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

42歳、中途採用面接で見事にキメる。

平成28年2月26日、課長の肩書を捨てる覚悟の転職活動もいよいよ佳境。絶対にしくじってはならない大本命の面接である。そこで気合を入れるため、僕はとっておきの勝負パンツをはくことにした。おろしたてのブリーフ、ギリギリのサイーズ。色は赤。戦国時代の赤備え、宇宙世紀の赤い彗星、赤は戦士の色だと歴史が証明している。戦場の小さな応接室、面接官は2名。和やかな雰囲気に騙されないよう用心しながらソファーに腰掛け、自己紹介、職務経歴。アホのような感謝の連呼も、日々成長出来る私アッピールも、SNSでの無駄な人脈づくりを語ることも今日はしない。相手が求めている堅実なリーダー像に合致した手堅い受け答えを完璧に遂行。足を大きく広げ、両ひざに掌を置き、ぐいと前に乗り出し、力強い目線で相手を射抜く。このままいけば見えてくる勝利。出てくる余裕。溢れる希望。足のあいだの床に一瞬視線を落として見つけてしまう絶望。視界に飛び込んてくる鮮明な赤。股間から流血。うっそー。過度の緊張からの血尿かしらん。しかし痛みはノー。残尿感ノー。行き着いた残酷な結論、赤いブリーフ、コンニチハ。おろしたてのパンツ。壊れかけのメンツ。「私が大事にしているのは社会人として当たり前の礼儀。常に相手に与えるファーストインプレッションを考えて行動しています」などと話していた数分前の自分が恥ずかしい。抹殺したい。なにがファーストインプレッションだ。現実はファーストインポでっしょ。面接官とはわずか1メートル。見てるよな。見てたよね。見えちゃってるよね。股間の赤ブリーフ。僕フリーズ。クソ。だから突然「好きな色」を質問してきたのか。嫌味な奴だ。しかし、社会の窓は閉めてきたはず。だのになぜ、赤ブリーフが、コンニチハ。226だけに叛乱したい気分なのかしら。追い詰められた僕は手でファスナを探る。相手を見つめたまま、今の仕事で学んだことを語りながら、股間を指でなぞるようにアップ。ダウン。アップ。ダウン。まるで変質者。おかしい。閉まってる。ファスナのタブは最上層。面接官も怪訝そう。面接中に股間を弄りだす中年に面接官2人も当惑、無言で目を交わす。きっつー。しかし構わない。沽券に関わる問題、いや、これは股間に関わる問題だ。僕は将来のビジョンについて熱く語りながら、実りの秋の稲穂のように首を垂れ、己の股間を凝視し、赤い疑惑の正体を突き止める。ひたひたと押し寄せてくる絶望。スーツ破れてた。股間の部分パックリ。神様教えてください。なぜ、人生の一大事にこんな苦行を与えるのですか。なぜ、僕は今日にかぎって赤ブリーフをはいてきたのだろう。なぜ、妻は僕の録画予約を勝手に解除するのだろう。何が赤い彗星のシャアだよ。あいつガンダムに連戦連敗じゃないか。厄病神め。その後、激しく動揺した僕は、自信ありげに開いていた足を閉じ、腿と腿のあいだに情けなく両の手のひらを入れ、オカマバーの店員のようにくねくねしたポーズで、「あぁ…そうかもしれません…」「出来ることと出来ないことがあります…年々後者が増すばかり…」と不明瞭かつネガティヴな受け答えに終始し、遂に「長年営業やられているわりにすごく緊張されるんですね」と嘲笑われる始末。そして暮れなずむ街の光と影の中を内股気味に逃げ帰ってきた次第。おそらく今回はダメだろう。失敗の原因は赤ブリーフ。もし、自然体だったなら、つって後悔先に立たず。立たずといえばインポテンツだけが不幸中の幸い。もし僕が元気マンだったら、緊張のあまり血液が思わぬ部位に流入し、重大インシデントに認定され警察沙汰になってたかも…。とにかく僕はおめおめ生き延びてこうしてまたくだらんものを書いている。なんて幸せなことだろう。今はこんなふうにポジティブに捉えるしかない。
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(この文章は19分かけて書かれた。なお写真は帰宅後に撮られたものである)