Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

先ほど僕の目の前で仮想通貨が炸裂しました。

彼から「仮想通貨をはじめた」と聞いたとき実のところ嫌な予感しかなかった。彼は前の職場の同僚で、僕よりもいくつか年上だった(彼については以前ここで書いたかもしれない)。会社を辞めてからは派遣会社に登録して生計を立てているはずだ。「はずだ」とやや冷ややかな言い方になっているがそこに悪意はない。ただ単純に彼の人生に興味がないだけだ。彼の人柄は、今のところ凶悪犯罪を犯していないので多分悪くないし、金遣いも荒いし、そのうえ仕事が出来ない人だった。つまり彼には責任感と呼ぶべきものが全くなかった。その最たるものが「お金があれば女にモテる」発言だろう。僕はこういうことを言っている人間がモテるようになったのを、週刊誌の裏表紙に掲載されているパワーストーンの広告以外で見たことがない。僕は彼を付き合う意味なしフォルダに放り込んだまま存在を忘れていた(正確な氏名を思い出せない)。だから革ジャーンを着た彼と往来で遭遇してしまったのはただの偶然であり、同時に面倒くさい邂逅だったのだ。そしてお互いの近況を確認するや否や彼は「これからは仮想通貨ですよ」と言いはなったのだ。資産を銀行に預けていても物価上昇に対しては無力、とも。僕は感動していた。手持ちの金がなく、焼き鳥屋の割り勘支払いすら出来ずにカバっと頭を下げた彼が、資産、銀行、物価である。「銀行へ金を預けているだけの人は猿だよ」と彼は付け足した。猿から人間へ。進化の瞬間に立ち合っているような気がした。「もう現金なんて時代遅れなんだよ。あなたはすでに乗り遅れている。これからは仮想通貨。現金から俺にコミットすることはあっても、俺からは金輪際現金にはタッチしない」意味はよくわからないが無駄に格好よかった。彼は下層通過していた。いつの間にかタメ口になっているし。負けたのは僕なのだ。おそらく。能力や知識ではなく、偶然と「金持ちになってモテたい」という自分本意で強力な射幸心と仮想通貨が彼に大金と自信を与えたのだろう。そう僕は理解した。「億り人」というワードが頭に浮かぶ。「ブロックチェーンとは何か」という僕の問いに対する彼の答え「大作映画のことだろ?」それが僕の理解を確信に変えてくれた。うん。アホだ。どこに出しても恥ずかしくないアホだ。だがアホでも結果を出したのだから認めなければならない。結果は結果だ。彼はコーヒーを奢ると言ってくれた。「ここは俺が。仮想通貨で払うよ」僕は驚愕した。ビットコインなどの仮想通貨が街中の店舗で使える時代がすでに到来していたことに。レジの人に支払い方法をきかれた彼は実に不快な発音で「ティィプォイントで」と言った。その声は《セブンイレブン》の店内に虚しく響いた。「使えません」と店員の兄さん、苦笑い。これはテロい。その後に続く「使えなくても貯まる?」「貯まりません」のやり取りはただただ悲しかった。事後に聞いたところによると彼は本気でTポイントを仮想通貨の一種と思っていたらしい。「現金の代わりに決済出来るじゃん」彼は極端な例だが何が何だかわからないまま仮想通貨に手を出している人は相当いるのではないか。実際、テレビに流れている仮想通貨関連のコマーシャルはそれが何だかよく分かっていなくても気軽に始められるとアッピールするものばかりだ。それが、パチンコ店がどの町にもあるように、一か八かのギャンブル好き好き大好きな日本人の神風スピリットに仮想通貨は火を点けたのだ。誤解してほしくないが僕は仮想通貨を否定しない。今からやっても手遅れだと思っているだけだ。いずれにせよ、くれぐれもご利用は自己責任で計画的に。もし、これを読んでいる人の中にめでたく億り人になられた方がいたら破産される前にニンテンドースイッチを恵んで欲しい。何卒。つーか乗り遅れの僕が過熱する仮想通貨に期待するのはそれくらいしかもうないんだよ。(所要時間18分)