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元給食営業マンが話題の1食6000円の高すぎる学校弁当「ハマ弁」を考察してみた。

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横浜市の全中学校で導入されている「ハマ弁」の衝撃的なニュースを見た。16年度の公費負担が1食あたり6000円を超え、利用率は1%台に低迷しているという。僕は前の会社で給食関係の営業をやっていて、実はハマ弁については市が行ったヒアリングに参加した過去があるので、この事業の厳しさは予想していたが、ここまで酷い状況になっているとは。大きな問題は二点。膨大なコストと低すぎる利用率。営業マンの目線からこれらの原因にアプローチしてみたい。

学校給食とハマ弁のような弁当では契約形態が違う。一般的に給食の契約は、年間又は月間の委託費(人件費や各経費と利益が含まれる)契約となり、その他に1食当りの単価(食材費)を定めるが、弁当契約は1食あたりの販売価格を定めるのみだ。ざっくりいえば弁当契約は労務コストを圧縮出来るためコストダウンがはかれる一方、固定費をかかえる事業者サイドは、売り上げが想定を下回った場合、運営が不安定になってしまう(相応の売り上げ数が必要となる)。ハマ弁については現在一食あたり400円前後の価格設定がなされている。では、なぜたかだか400円のハマ弁ひとつに数千円もかかっているのか。このミスマッチが上のニュースにインパクトを与えている。

上の記事を読んで誤解されている方もおられるようだが、ハマ弁事業が赤字だから公費が投じられているわけではない。ハマ弁は、市と事業者とが協定を結び利用者に販売するというやり方を採用している。公募要綱を確認すると当初から公費負担が定められている。事業が不調だからではなく、当初から公費負担は決められていたのだ。

横浜市 市立中学校における横浜型配達弁当(仮称)の実施事業者を公募します! (平成27年09月17日記者発表資料概要)

こちらの記者発表資料より「3.公費負担」を抜粋する。「栄養バランスのとれた温もりのある昼食を持続可能な仕組みとするため、公費負担を行います」とあり、「『横浜らしい中学昼食のあり方』の実現にあたって必要な機能、仕様を追加するための費用の一部を公費負担する」としている。項目としては複数メニューやさまざまな支払方法に対応するシステム構築運営、弁当箱・保温コンテナ、配達回収とある。もちろん、これらは業者負担ではないため公募プロポーザルの審査対象ではない(業者とは関係がない)。

想定されていたかどうかはわからないが、この公費負担が事業規模に比べて大きくなっているのだ。たとえばタブレットやスタホからアクセスできる予約システムや複数の支払に対応する決済システム。必要かどうかはさておき、これらのシステム導入維持費は相当額になっているのではないか。16年度の市費負担は3億円を超えるらしい。この数字に初期投資額は含まれていないとされているが、僕はかつて関わった案件で、保温用弁当箱をまとめて購入したことがあって、そのときはワンセット4千円だった。1万5千食想定のハマ弁でこれを1人あたりツ2セット導入すると1億2千万。また、同じ神奈川県の二宮町が4000食/日程度の給食センターを建設する際は、建築費7億4610万円(床面積1500㎡/建築単価497,400円)プラス付帯設備費1億710万円、9億円弱がかかっている。ハマ弁がいくらコストがかかっていっても、給食センター建設に比べれば低コストなのは間違いないのだ。

そういう事情を知っていたので、ハマ弁の事業規模からいって、3億円超の市費負担にはそれほど驚かなかった。少々かかりすぎ、というのが正直な印象だ。僕の驚きは他にある。この記者発表資料によれば《これらの公費負担は食数の増減にかかわらず一定となる方法で行う》とされている。売り上げがゼロでも一定額の公費負担。ありえない。裏がありそー。実際はどうだかわかりかねるが公費垂れ流しになっていた可能性は十分にある。利用率(売上)が想定の15分の1なのに公費負担は一緒。ないわー。

もうひとつ。もっとも大きな要因とされる利用率の低さについて。20パーセント見込みが1パーセント台に低迷している。僕からいわせれば1万5千食/日という予想が甘過ぎなのだが、とりあえずそれは置いておいて、利用率の低迷の要因は、400円という値段に内容が伴っていないのが大きいのではないか(ニーズに合っていないということもありうるが)。おかしい。400円という価格はデリバリー弁当にしては少々高い。高いのに良くないから売れない。シンプルな理屈だ。先程述べたがこの400円という価格には人件費をはじめとするコスト全部が含まれている。つまり400円のうちの一部、何割かが食材費となるわけだ。弁当のクオリティーは食材費をどれだけかけられるかが重要なファクターとなる。ここでハマ弁特有の事情が見えてくる。公募型プロポーザルの結果、選定された事業者は株式会社JMCという企業である。

横浜市 ハマ弁(横浜型配達弁当)の事業者について (平成27年12月10日記者発表資料概要)

興味深いのは、この選定された事業者に加えて他4社が協力事業者として名を連ねていること。実施体制は「全体統括   ㈱JMC」「献立作成など  ㈱わくわく広場」 「弁当製造配達回収 ㈱美幸軒 ハーベスト㈱ エンゼルフーズ㈱」となっている。注)エンゼルフーズは大磯問題で撤退済(横浜市 「ハマ弁」製造業者の変更について (平成29年09月29日記者発表資料概要)。

400円前後の販売価格の弁当のなかに、これだけの関係会社がいて、それぞれが利潤を追求する株式会社なら?最初に削られるのは食材費である。食材費の低下はクオリティーの低下へつながり、価格に見合わないと利用者に判断されたのだと僕は考えている。その理由は孫請けとも言うべき体制にある。

こんなイメージ。

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おかしい。当初は《市内全域全業務を一括で実施することを実施条件とし、選定した事業者と5年間の協定を締結することを想定しています》としていた(業務※献立作成、注文管理、調理配達、回収洗浄、保管)。そして主な評価項目として配達弁当事業実績の有無と実施体制を挙げていた。それが実際にはJMCという旅行会社JTBの関係会社(給食や弁当会社ではない)を頭とした協力体制になっている。なぜ方針を転換したのだろう。それも専門外の企業に。

僕がいた会社がこの公募を辞退したのは一括受託が不可能だったからである。なるほど横浜市内全中学を1事業者でカバーするのは困難だ。それならばエリアごとに業者を選定して競わせるなど民間の力を活かす道はあったはずだ。

話は終わらない。実はハマ弁はこの4月から値下げを断行するのである。値下げ額はメニューによるが最大130円(470円のメニューなら340円になる)。平成29年12月13日付で教育委員会事務局で出した「ハマ弁の価格の見直しについて」を抜粋(リンクがPDFなので割愛)。《ハマ弁の提供内容や注文システムは他都市のデリバリー型給食よりもきめ細かい内容となっています。今回、価格についても利用しやすくなるように他都市のデリバリー型給食並みの価格に設定します》とある。ちなみに近隣鎌倉市は330円である。

素晴らしい!より良いサービスが他の市町村よりも低価格で利用出来る!さすが横浜!などと感激することなかれ。どうビジネスモデルを組み直したのか調べてみて愕然とした。利用者は値下げされた新価格でハマ弁を購入できるが、旧価格との差額を事業者は市に請求し、市はその差額を支払うそうである。つまり従来の仕組みを維持したまま公費負担が増すだけ。改善や見直しは棚上げされている。いや、おそらくだけれど、もともと関わっている人間が多すぎる高コスト体制なので削減しようにもできないのだ。ハマ弁問題の根底には「謎すぎる実施体制」と「失敗を認めないこと」にあると思われる。利用率の低さと莫大な公費負担はその結果にすぎない。納税者からしたらたまらんよね。ではまた。(所要時間41分)