Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

食品業界の片隅にいる僕が「飲食店アルバイト不適切動画」問題について全部話す。

またアホがやらかしたのか、という感想しかないけれども、飲食店やコンビニのアルバイトスタッフによる不適切動画が話題になっている。法的な措置を取るところも出てきている。問題への反応も、立場によって「なんでこんなことやるんだ」というモラルの欠如、「口に入れるものなのに汚い!」という衛生管理問題、「アルバイト頼みの歪んだ職場環境のせいだ!即刻非正規スタッフを正規雇用へ!」という労働問題、「こういうことでしか表現できない…むしろ彼らは被害者です…」という心の闇問題、等々、さまざまで興味深い。僕が興味深いのは、いろいろな立場の人が、問題を解決するというよりは、自身のフィールドに落とし込み、かねてからの主張の材料にしているようにしか見えないところである。


僕は食品業界に身を置いている。いつ、このような不適切動画の当事者になるかわからない立場だ。だから、仕事と思って比較的冷静に不適切動画を見ることができている。そこで気付いた点を簡単に話してみたい。話題になった飲食店アルバイト不適切動画をいくつか見ると、驚くほど似ていることがわかる。接客や調理を任された(高度な技術を求められる調理ではない)複数の若いスタッフ(おそらく学生アルバイト)による行為であること。そして、暇を持てあましているように見えること。後者にフォーカスしてみる。「暇だ」「退屈だ」「ねえ何か面白いことないかなー」「店にはないね」「じゃあ」「僕たち」「私たちは」「面白くない」「職場で」「面白いものを」「創造します」「創造しまーす」。そういう思考でアホな行為に至ったのは容易に想像できる。それをSNSにアップする心理を想像するとアホが伝染しそうなのであえて触れない。

ではなぜ、暇なのか。退屈してしまうのか。繁忙期ではないから。深夜帯で客足が途絶えがちだから。確かにそうだ。でも暇なのはそれだけではない。僕は工程の確認をするために、アルバイトに混じってホールに立ち接客業務をすることがある。店舗立て直しの一環だ。立て直しをしなければならないような、非繁盛店。当然、客足がばったりと途絶える時間帯がある。与えられている仕事は接客。マニュアルには手洗いなどの衛生ルールや接客やオーダーのルールは定められている。手の空いたときにも、補充や清掃などの仕事が与えられている。それらを終えてしまうと途端にやることがなくなる。仮に、料理の道で生きていく、将来は自分の店を持ちたい、と考えている人間ならば、その空き時間に先輩調理師の指導を仰いだり、自主練習をしたりすればいい。その空いた時間、暇を価値に転換することができる。

だが、接客や調理補助アルバイトはどうだろう。時間給で働いているので、その時間がどれほど空虚であれ、そこにいなければならない。将来はロックスターになると夢想しているアルバイトスタッフが、暇な時間を費やして豚の捌き方を真剣に学ぶことがあるだろうか。ない。もしかしたら将来メタルバンド・ライブで豚の頭部を掲げてシャウトする可能性も僅かにあるだろうが、基本的にない。手が空いたらやっておくべき業務を終え、客足が途絶えた暇な店内で、ボンクラな僕が一瞬、考えたのは、不適切動画を取った若者たちと同じような行為である。恥をしのんでカミングアウトするならば、僕は股間のパオーンをパンで挟んで、ホットドッグをこしらえてみようかな、と考えたのだ。実行に移さなかったのは、「マスタードが染みたらイヤだなあ」という肉体的な痛みを想像できるだけの想像力と、人並みの知性があったから、そして、失うものの大きさに気付いたから、それだけのことなのだ。アホだったら、僕を押しとどめたものを容易に越えてしまうだろうことは容易に想像できる。

僕は、非適切動画問題を、暇を価値に転換できないアルバイトと企業の悲劇だと考えている。端的にいえば、使用者がアルバイトに適当な仕事を与えていないことが原因なのだ。飲食チェーンのアルバイトのマニュアルは効率化が進められている。それは最小限の人数で、最大限の仕事をこなすための仕組みである。それは間違っていない。だが、その仕組みは、閑散期や客足が途絶えがちな深夜のような時間帯に、アルバイトスタッフが暇を持てあまさないような、退屈を覚えないような仕事を与えるようには考えられていない。せいぜい、手が空いたらこれをやっておこう、くらいのものでしかない。通常の業務マニュアルに加えて、閑散状態、手待ち時間マニュアルがみたいなものがあったとしても、そこに定められているのは、基本的に片手間で出来る軽作業であり、導入についても、時間帯で区切るのか、それとも客足の状況で区切るのか、一長一短で難しい。

不適切動画を撮影してネットにアップするような輩に、それなりの処罰を与えることに異論はない。それなりの抑止力はあるだろう。だが悲しいかな、不適切動画は、絶対に特定されないような工夫をするなど、別の形で復活するだろう。必要なのは、発想をかえて、暇な時間に、調理コンテストをやるとか、企画立案の仕事を与えるとか、飲食店アルバイトの《暇を価値に転換できるような、退屈させないような仕事》を会社サイドが考えることだ。かつての僕みたいなボンクラに、不適切動画を撮る隙を与えないようにすればいい。きっつー。そんなことまで会社が考えなければならないのかと嘆きたい気持はよくわかる。でも罰を与えるだけでは、飲食店アルバイトの不適切動画問題はいつまでも、「やった」「注意した」のイタチゴッコになるだけだ。いや、実際そうなっているだろ?(所要時間38分)