Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

なぜ仕事を断ることに罪悪感を覚えるのか。

「仕事を断ること」も、営業の仕事である。断る理由はいろいろある。今、僕の勤めている会社では、「商談を進めている相手に、社会的によろしくない団体との付き合いが確認された」とか、「商談相手が倒産寸前の財務状況であった」という論外をのぞけば、「社が望む売上や利益が見込めないから」というものがほとんどである。そのほかにも、事業展開エリア外、とか、理念や方針が合わないから、とか、相手の顔が生理的に無理、という理由があるかもしれない。

断ることは、営業職の仕事の中で、最も難しいもののひとつでもある。なぜ難しいのか。汗水たらして見つけ育ててきた仕事を断るのは、そこまでかけた時間や手間はともかく、築き上げた信頼関係が壊しかねない。裏切った、申し訳ない、スマンと思う。ひとことでいえば、罪悪感を覚えるからだ。

ある案件の話。担当者ともツー・カーの仲になり、商談を進めていくうちに、想定している売上・利益が見込めないことがわかり、断腸の思いで、断りを入れた。ツーでカーな担当者氏から「今までは何だったのか。あんまりじゃないか。こちらは乗り気だったのに」と厳しい言葉を投げつけられた。厳しい言葉だけのほうが良かった。ツーでカーな担当者氏からは続けて「信頼してたのに…。まあ、会社勤めしてたらこういうこともあるわな」と優しい言葉もいただいた。そちらのほうが精神的に、きっつー、だった…。

営業の仕事を20年以上やっていて、こういう経験を何回かしている。営業職だけでなくすべての職種に共通することだけれども、仕事を断ることは、自分の属している組織を守ることだ。任務を忠実に果たしたのだから、胸を張ればいい。僕は、これも仕事と割り切って、サーセンつって、あっさりと断れるようになった。だが、全員が割り切れるわけではない。特に、仕事を真面目にやっている人ほど、断る際に、罪悪感を覚えてしまうだろう。もしそう感じたら、ビジネスライクに仕事が出来ないとネガティブになるのではなく、仕事に真剣に取り組んでいた証拠とポジティブにとらえてもらいたい。一方で、小さい仕事だからと断った案件が、同業他社のもと、大きな仕事になって悔しい思いもしたこともあったが、20年超で数件なので、そちらはレアケースといっていいだろう。

HGUC 1/144 MS-09 ドム 黒い三連星トリプルドムセット (機動戦士ガンダム)

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断る、といえば、昨年の夏、長年の外回り営業で浅黒く日焼けしているので「黒い三連星」と個人的に僕が呼んでいる、ベテラン営業マン3名が「あなたにはもう付いていけない」と断って、会社を辞めていった。営業部長である僕のやり方や方針が気に入らなかったのだろう。単純に、新参で年下の僕の言うことなんか聞けないという気持ちもあっただろう。日焼けで黒いわりに、心がピュアホワイトで、器が小さい方々なのだ。

実際、そのうちの一人から「正直いって、あなたのことが好きではありません」と言われた。好きではない、といわれても元々そっち方面の趣味は持ち合わせていないので、返す言葉はなかった。「ベテランといわれる年齢になっても、好き嫌いで仕事をやっているのか…」という驚きがあったくらいだ。会社を辞めてから、3人でコンサル業を立ち上げたらしい。ユーチューバーみたいに、好きなことで生きていってもらえれば、僕もうれしい。

昨年末から、営業部全体で、仕事を断る機会が増えている。お断りをするのは、売上や利益が見込めない、いってみればお金にならない小さな仕事案件だ。営業担当が追いかけ積み上げたものが、残念ながらものにならなかったものもあれば、相手サイドから問い合せてきたものもある。いずれにせよ、会社が望む売上・利益が望めない仕事は断るという方針にブレはない。仕事だ。ただ、基本的にマジメな部下の人たちが、業務命令で仕事を断って、罪の意識は持ってもらいたくはないし、相手から恨みを買うなどは持ってのほかだ。

そこで僕は、そういった小さい仕事をただ断るのではなく、例の黒い3連星へ回すように手配した。「ウチとは縁がございませんでしたが、こちらのドムたちならご期待にそえると思います」とか言って。彼らとの付き合いはそれほど長いものではなかったけれども、その仕事ぶりは、間違いなく、できる人のそれである。雑な仕事をして先方に迷惑をかけるようなことはない。残念ながら彼らとは友人になれないし、金をもらっても一緒にお酒を飲みたくはないが、仕事だけは信用できる。いや、むしろ個人的に親しくなかった分、純粋に仕事だけを評価出来たともいえる。仕事が保障できて、小さい仕事を任せられて、こちらを脅かさない存在というのは、実のところかなり貴重なのだ。

現在、いわゆる小さな仕事を断るときは、元同僚の彼らに回す流れが出来ている。ウチにとってはギルトフリーで仕事を断れるし、お客にとっては商談が続けられるし、元同僚にとっては仕事を得られる。三者にメリットしかないので、ウィン・ウィン・ウィンの関係といったところだろうか。三連星からは、仕事を回してくれてありがとうございます、と言われた。好きではない、と言ったり、感謝したり、慌ただしいというか、情緒不安定気味だが、この先、大丈夫なのだろうか。

なにより、喧嘩を売った人間から回された仕事をやるなんて「プライドないの?」と心配になってしまう。僕なら断っている。ふざけるな、と。勝ち残るのは、必ずしも能力の高い人間ではなく、プライドや信念や意地みたいなものが強い人間だと僕は信じているし、実際、サラリーマン生活を通じてそういう人たちを多く見てきた。まあ、黒い三連星の三人には、無謀なジェットストリームアタックを仕掛けてガンダムにやられないよう、うまくやってくれればそれでいい。

何が言いたいかと申し上げると、仕事を断るのは営業の仕事なので、断ることに罪悪感を覚える必要はないということ、もし、あなたが生真面目で罪の意識に苛まれるのなら、ギルトフリーになる方法を見つけて心身に負荷をかけないようにするのが大事であることだ。たかが仕事、されど仕事。ギルトフリーで気楽にマジメにやればいい、それだけである。(所要時間28分)