Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

退職代行、被弾しました。

若手期待のホープ君が退職代行サービスを利用して、姿を消してから、一週間になる。退職代行サービスの存在を知ったとき「そんなものまで代行するのかーなるへそなー」と他人事と思っていたのに、まさか、自分が被弾するなんて。ホープ君とサシで飲んだとき、冷酷でビジネスライクすぎると批判されたものの、考え方こと違えど、そこそこ分かりあえたつもりだった。仕事サイコー!と杯をぶつけた、あのときの「部長にぶつかっていきますよ!」は何だったのか。まさかぶつかってくるのが本人ではなく代行業者とはね。ビジネスライクすぎやしないか。代行の担当者は、会社名を名乗り、ホープ君が退職する旨を伝え、手続きを進めてください、と言った。それだけ。理由等詳細は永遠に闇に葬られたわけだ。あの晩、立て替えた酒代も請求できない。被弾したときは「なんだよー」「ざけんなよー」と軽く血が上ってしまったけれど、それだけである。一線を引かれて相手が退場してしまった以上、感情を高ぶらせようがないのだ。

退職代行サービスは、退職者にとってのみメリットがあるものだと考えていたけれど、実際、被弾してみて、案外、退職される会社サイドのメリットも大きいことがわかった。まず、顔を突き合わせないため、感情的にならずに済む。「てめえ何がぶつかっていきますだよ、人のことを冷たい人間といっておいて、この仕打ちはなんだ。酒代返せ」などといって醜態を晒さずに済む。つぎに、わずらわしい慰留工作および転職先調査などせず、粛々と退職処理に移行できるため、時間が節約できる。それから、意外な発見だが、仕事さえきちんとやってくれていれば、いきなり消えてしまっても、いや消えたからこそ、当該退職者に対する評価がマイナスにならないということ。「あっさりしてんなー!まあ仕事よくやってくれたからいっか」て感じである。僕なんて前職で、リストラやら海の家運営やらボスのダークサイドを散々やらされて、慰留もされたりもしたけれど、今はひどいことを言われているからね。もっとあっさり辞めてやれば良かったと後悔している。デメリットもある。育成にかかるコストがムダになること、そして引継ぎの問題だ。ウチの部署は、全案件チーム制を敷いており一人が案件すべてを抱えるような状況ではないので、一人突然抜けたところで、大きな支障はない。だが、一人が仕事のすべてをかかえているような体制では仕事を丸ごと持っていかれてしまう。たとえば研究部門における研究成果みたいに。会社サイドからみれば、いつ破裂するかわからない爆弾を抱えているようなものだ。

一方、退職者のメリットは、退職するにあたって心構えが要らないので心が擦り減らない、時間が節約できる、くらいだろう。デメリットは、一件あたり数万円の手数料、下手をすると恨みの対象となりかねない、といったところだろうか。一人勝ちは一本電話するだけで数万円ゲットできる代行業者である。ホープ君についていえば、彼がカウントした年休の残日数と、人事が算出したそれとで違いがあった、つーか残日数ゼロだったので、ただの欠勤扱いになっている。教えて差し上げたいけれど、本人がビジネスライクに連絡するなといっておるため、ま、しょうがない。悲しいけどこれビジネスなのよね。ラスト給与明細もビジネスライクに着払いでいいよね。酒代も請求していいよね。仕事上大きな問題はないけれど、取引先の担当者からは「いきなりヤメちゃうんだ…」と言われた。このようにいい印象は得られないのも確かである。ビジネスライクと批判された僕が、ホープ君の行動には「自分で退職の意思も示せないなんてこれから苦労するだろうなー」というビジネスとは程遠い幼稚で感情的な感想しかない。一線を引かれてしまったので、感情的なモヤモヤをそういう幼稚な感想に変換するしかないのだ(実際、惜しい人材だった)。

このように、退職代行サービスのメリットや意義を僕は認めている。これからの世の中は、退職したい人はパンパン気楽に退職できる流動的な世の中になっていくべきだ。そうすれば企業も人材流出に対して危機感を持ち、待遇や福利厚生が改善され、競争力も増すはずだ。退職代行はそういう世の中の先駆けとなってもらいたい。そして最終的には「退職代行を頼んだらその分退職手続きが遅くなる」ような世の中になってほしい。そういう理想を掲げながら、「ホープ君はこれから苦労するよなー!」と周りに聞こえるようボヤいてるのは、社内の何人かが退職代行サービスのWEBサイトへアクセスしているという秘密警察からのタレこみがあったからである。理想はあっても、これ以上の被弾は回避しなければならぬ。悲しいけどこれビジネスなのよね。(所要時間26分)