Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

新人をクーリングオフすることにした。

きっかけは取引先からの一本の電話。ビジネスの話のあとで「フミコ部長…大変言いにくいのですが…」と切り出された内容がショッキングで、僕は部下の返品を決めたのである。

当該部下は新人で本来の所属は管理部門なのだが、とある理由から「環境をかえたらどうか」というトップ判断を受け、今月末までの期間限定で営業部で預かっているのだ。能力的にはまったく問題はない。だが居眠り癖がどうしても抜けないのである。そんな眠狂四郎君は、勤務時間中に眠っているのを何回も目撃されて問題となり、環境をかえれば改善されるのではないかという計らいで営業部に在籍している。基本的にマジめな好青年なので営業部で何とかしてやりたいと僕は考えていた。環境を変えた効果はあった。仕事中で眠る回数はほとんどなくなった。「よくやっているね」と褒めたら「目を開けたまま眠れるようになった」という斜め上の言葉が返ってきたのは衝撃ではあったが(開眼睡眠)。目を開けたまま寝ているのなら「なんだよアイツ新人のくせに瞳を閉じて寝やがって」って士気は下がらないし、期間限定だし、頼んだ仕事はきちんとやってくれるし、ま、いっかと考えていたのだ。はやく7月末が来ないかな~と首を長くして待っていたのだ。

ところが一本の電話で事態は急変。率直に言って裏切られたと思った。電話の主である取引先に先日、僕は眠狂四郎くんと赴いた。昼下がりの応接室。前方に取引先の担当氏、僕の右に眠狂四郎くんが座った。「商談の進め方をよく見て覚えておくこと」、僕は眠狂四郎くんにそれだけを言った。商談そのものは順調であった。何も問題はなかった。あの電話までは。「大変いいにくいのですが、彼のためでもあるし」といって担当氏は眠狂四郎くんが商談中寝落ちしていたのを教えてくれた。おかしい、僕もときどき気になって横を見ていたが、彼の目は活きている感じがあって、目をあけたまま寝ているときの死んだ感じはなかった。ところが担当氏によれば、眠狂四郎君は僕から見える左の目を開けたまま、死角になっている右目を完全に閉じていたというのだ。つまり右半分で寝ていたというのである。うそーん。アシュラ男爵かよ。まさか、半分とはいえ、客先で寝るとは。

僕は詫びをいれて、眠狂四郎君の管理部門への返却を決めた。社内では目を閉じることに目をつむることは出来ても、客先での居眠りに目を通ることは出来ない。絶対にダメだ。管理部門の責任者に事情を話して「客先の応接室で寝るとはとんでもない、迷惑をかけたね」という言葉を期待して待っていると「いや、期間満了までは取り決めどおり営業部で預かってよ」という答えが返ってきた。部長会議で決まったことだから。ボスの決裁がないと無理ですよ。というカタチだけの回答だけならまだ良かった。彼は「あの新人君はひとりの人間だ。物品のようにクーリングオフ期間を設けるなんて、期間内に返品するなんて上司として、いや、ひとりの人間としてどうかね?」と言って、拒否したのである。

おいおいおい、客先で寝てしまう人間を営業に置いておけないでしょう、クーリングオフの対象だろう、という僕の反論は受け入れられなかった。結果的にトップダウンで決まった異動なのでボスの決裁がなければ動かせないということになった。「ボスに無断で出来ますかそれとも会社をやめますか」という文句で追い詰められてしまう僕。運が悪いことにボスは海外出張中。眠狂四郎君は最悪ボスの帰国まで営業部で預かるしかなくなった。胃が痛すぎる。新人や若手を大切にしなければならないのは理解できるが、そのために管理職の胃を犠牲にしてもいいのだろういか。つか部下もクーリング・オフ・オッケーにしてくれ。(所要時間27分)