Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

限りなく乗っ取りに近いコンサルティング

客ではなかった。会社を乗っ取ろうとしていたハイエナだった。肝の小さい同僚は応接室の僕の傍らで小さくなっている。話を戻す。年末くらいから事業部がコンサル会社の営業を受けているのは知っていた。「事業拡大の手伝い」云々。よくある話だ。事業部に持ちかけられた話は、超大手企業の福利厚生部門を一括しておまかせしたい、というもの。これにウチの事業部は食いついた。表向きはコンサル会社が仕事を受けてその下請けというビジネスモデルであった。「事実上御社がやっているのと変わりません」と言われて、呑気なウチの事業部の連中は「売上はコンサルに払う分下がるが責任はコンサルがもってくれるんだヤター!」と喜び、話を進めていた。

コンサル会社のターゲットになったのは事業部のトップである六十代後半の人で、判断力が落ちているのだろうね、疑うことなく話に乗り商談をすすめてきていた。風向きが変わったのは、コンサル料の金額の話になったときだ。「コンサルティング業務に対してコンサル料を支払う」という認識でいたが、逆であった。売上の全部をコンサル会社が占めて、コストと事業代行料を支払うという形態を提示されたのである。疑いを知らないピュアなウチの事業部の連中も焦った。「事実上という話はどうなったのだ」と詰め寄ったら「これが事実上ですよ」と言い返された。そしてコンサルからは「我が社を通してではないと御社はこの仕事はできません。なぜなら貴社はクライアントの取引リストに入っていないので。我々はコンサルティングではなく窓口です」と宣告された。すでに社長に対して予測売上を伝えて契約間近と報告している事業部の連中が焦ったのはいうまでもない。今年度の予算にも計上してしまっている。事業部の連中は、コンサル料の比率を大幅にアップする提案をしたが、相手からは「あくまで主体はこちらです。イヤなら別のパートナーを探します」と拒絶された。

この時点で事業部の連中からヘルプを頼まれた。社長からの重圧と、厄介な相手の対応。2重苦だ。僕に言わせれば、見通し甘すぎ、相手を信じすぎ、である。第三者の僕に商談を打ち切らせれば社内的にも安泰という計算もあったのだろう。僕は、交渉断絶もやむなし、という方針を立て、社長の了解のもとで商談に臨んだ。相手は2名。代表と役員。冒頭で論点を整理して交渉をスタート。相手の主張するモデルを変更できないという前提で話を進める。事業代行料を上げる方向性だ。求められる利益さえ確保できれば売上にこだわらないという妥協案である。その話の途中で代表の人が、突然、「私はオリンピアンでメダリストなんですよ、あーた」といった。会社パンフの経歴には40年以上前の五輪でメダル獲得と書かれていた。銅メダルであった(特定されたくないのでマイナー競技としておく)。僕は話がどの方向へ行くのかわからなくなって沈黙した。

すると銅メダル男は「仕事はいってみれば信用です。メダルはね信用ですよ、あーた。日本はね、メダルですよ。メダルで積み上げてきた信用があるからクライアントとお付き合いができるようになったの。メダルがね、なければね、この話もないの、あーた」と謎理論をぶつけてきた。あーた、あーた、うっせー。話のあとを引き継いだ役員が「もうひとつ条件があります。御社の役員に私たちの人間を加えていただきたい」と言った。今、なんと。交渉がうまくいっていない流れのなかで、意味不明のメダル理論のあとで、それ言う?「クライアントは再委託を禁じているが、役員を出していれば、事業の一体性を認められてその条件をパスできる」という理由を役員は述べた。

この人たちは客ではなかった。会社を乗っ取ろうとするハイエナであった。そうとわかれば対応は簡単であった。僕は「貴社の方を役員に迎えてウチにどういうメリットがありますか」「失礼ですが、食品系の事業実績はございますか」何もなかった。「失礼ですが、貴社は私たちのような実際に事業をおこなう会社がいないとクライアントとビジネスができないのではないですか?食品系のノウハウがないのは百歩譲ってコンサル料を支払うのはヨシとしても、売上を全て取り上げて、そのうえ役員をウチに送り込むというのはやりすぎではないですか。はっきりいって弊社は貴社と信頼関係を築けていませんよ」と言った。銅メダル男は「メダルは信用ですよ、あーた」と意味不明の理屈というだけであった。

僕は「仮に、貴社の方を我が社の役員に迎えれば、この仕事は100パーセント受けられるのですか?確約できます?」と言った。「確約はできません。この案件が流れる可能性もじゅうぶんにあります」と役員。流れるのかよ、きっつー。「案件が流れた場合、我が社に入った役員の扱いは?」「そのまま貴社の役員として事業を…」「実績もノウハウも信用もない方がウチで何をするのですか。乗っ取るつもりですか?」「はい。そう受け取られても仕方ありませんね」「このお話はなかったことにしてください」と僕は話を打ち切った。僕らは銅メダル男のメダル自慢話あーたあーたを聞かされて商談を終えた。話慣れているらしく盛り上がりを押さえた面白いエピソードだった。それだけが救いだ。

僕は営業マンなので、いろいろな人に対応できるけれども、謎理論をふりかざす人だけは慣れることができない。きっと慣れることはないだろう。食品業界は敷居が低くて参入しやすいせいか、ときどき怪しい人が入り込んで謎理論をふりかざしてくる。きっつー。僕は若くない。これまでは耐えられたものも耐えられなくなってきている。そろそろ限界かもしれない。僕はロト6を買い、幸福の青い鳥を待っている。青い鳥が舞い降りてきて、暖かい光がここまで届けば、長く延びきっているサラリーマン人生から脱出することができるだろう。(所要時間30分)

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