Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

とある値上げ交渉と契約解除の話が雑すぎる。

僕は食品会社の営業部長。長いあいだ同じ業界で営業の仕事をしていると、同業の営業職をはじめ関係者と嫌でも知り合いになる。で、いろいろな情報が入ってくる。「人脈をつくる」と鼻息荒くゴリゴリ作った関係性ではなく、仕事をするなかで自然発生した関係性だ。なお、つくった人脈は、僕の経験では仕事で役立つことはほぼなかった。

先日、同業他社の営業から連絡があった。彼の勤める会社が取引している法人についての相談だった。《昨年の夏から、労務費のアップや原価高騰を理由に値上げ交渉を打診してきたが、全く乗ってくれなかった。先日、最終通告として値上げを打診し、受け入れられなかったので、契約に則り解約通告した》という話。「残念ながら喧嘩別れという形になってしまったが、うまく契約すれば売上は大きいのでエントリーしてみてはどうか?」という案件紹介情報であった。紹介は、法人の担当者から「同条件でやってくれる後継の会社を紹介してほしい」と泣きつかれたからであった。爆弾回すなよが正直な感想だ。

別の日、取引先の紹介で、とある法人から電話を受けた。先述の法人からであった。世界狭すぎ。《ある食品業者と契約していたが、先日突然値上げ要求を出してきて、受け入れられなかったら契約通りに解約すると言われた。予算策定の時期は終わっているから急な対応はできないと答えたら解約を通告された。そこで新たに納品してくれる業者を探している》という内容であった。「値上げに応じないわけではない。でも、物事にはステップがあるでしょう」と担当者は言った。提示された条件は予想どおり爆弾級だった。

これらは、一つの商取引をそれぞれの立場から見たものである。面白いのは両者ともに「値上げは仕方ない」という考え方は一致しているが、交渉決裂している点。相違点は、一方が事前から値上げの打診をしていたといい、もう一方は、打診は急だったといっている点。もう一つ共通しているのが、お互いにそれぞれの仕事の進め方を非難しているところだ。熱い。地獄ヒートだ。なお、解約自体は、契約に定められていて全く問題がない。業者は契約どおり三か月前通達だからノープロブレムという見解であり、法人は契約どおりだが、長年付き合ってきてその対応はひどいじゃないかと言っている。ひとたび関係がこじれてしまうと、契約で決められたとおりでも感情のしこりが残るものである。

おそらく末端の担当者レベルで値上げについての話し合いはあったのではないか。「オナシャス」「ワッカリマシター」と言う口先だけのなあなあでやっていたところ、決定権のある役職者が出てきて「あれはどうなった?」となって問題が明らかになったといったところではないか。多分。どちらかが悪いのではなく、どちらも悪い。

僕の立場からみれば、これはビジネスチャンスだ。うまく乗り込んでいって契約が取れればラッキーである。可能性は高い。だが、ウチと取引をしても労務費と原価高騰を価格に反映させるのは、現業者と同じである。もし「オタクならもう少し安くできるのでは」なんて勝手に期待を持たれても困る。で、その法人に出入りしている他の業界の営業と連絡を取って、当該法人の体質を調べてみた。

想像通り、決定権者のある人が交渉に出てくるのが遅い傾向があって話が進まないという話だった。僕が情報を得たのはリネン会社の担当者で、交渉には応じてくれるがとにかく動きが遅いらしい。これも想像だけれどもわざと交渉を遅らせて優位に持ち込んでいるのかもしれない。法人の体質は変わらない。条件も悪い。トラぶりそうな仕事を、危険を犯してまでする必要は無いので断った。よい仕事(契約)を取るには、見込み客と情報源を多く持つことが大事。そして案件の当事者以外からの情報を加味して判断することだ。そうすれば良い仕事が取れる。それが営業の仕事の8割で、「良い企画を作る」とか「プレゼンをキメる」なんてことは、些末にすぎないと僕は思う。

なお、今回の話を断ったら、紹介してくれた業者と取引を求めてきた法人が「なんであんな会社(ウチのこと)を紹介したんだよ」「条件が悪かっただけだろ」と揉めているらしい。その情報はまた別のルートから得た。クソすぎる。関わらないほうがいいという僕の判断は正しかった。今は、喧嘩をやめてふたりをとめて僕のために争わないでな気分である。食品業者が見つからず泣きついてきたら、そのときは交渉に応じて優位な条件を提示して契約を結べばいいのである。紹介案件は食いついたら負けなのだ。(所要時間24分)

なぜ官公庁の食堂はうまくいかないのか、元給食営業マンが考えてみた。

僕は食品会社の営業部長だ。先日、とある官公庁の担当者から連絡を受けて話を聞いたら、税金を納める側からしたら、とんでもない仕事の進め方をしており、僕ひとりでは受け止めきれないのでシェアしたい。官公庁の食堂に係る仕事の進め方で記憶に新しいのは、条件が厳しくて参加業者が集まらなかった「これ」である。

県庁東庁舎12階のレストラン、神奈川県が要件を見直し再募集|新・公民連携最前線|PPPまちづくり

僕が受けた話は、この神奈川県庁東庁舎レストラン案件より規模は小さいものの、仕事の進め方ははるかに悪く、衝撃的だ。正式にコンペが行われる前に、「相談」という形で行われるヒアリングだった。具体的な施設名称は差し控えるが、対象は公的な施設の職員食堂。数年前に業者が撤退して以来稼働していない暗黒案件だ。話を聞く前から条件の悪さを予想できる。担当者は冒頭で「施設を無駄にしているので一刻も早く食堂を改造しなきゃいけない」と言った。前提条件が固まり次第、公募を出す予定らしい。

条件を聞いた。驚いた。営業時間は平日の昼食時のみ。一日の予想利用者数は100名程度。希望する価格は平均500円。「職員食堂という性格上この価格帯は譲れません」と担当者は力強く言い切った。このとき帰ればよかったのだ。担当者は「数種類のランチとバランスの良いメニューを業者さんには求めます。なお食堂は一般開放するが、基本的には福利厚生施設という性格上広告はやめてほしい」と続けた。官公庁案件で問題になるのはテナント使用料だ。ストレートに聞いた。「国の施設なので使用料として年間6,000,000円になります」という答えが返ってきた。真顔だった。月額500,000円。「ちなみに」「なんですか」「税抜きです」やはり真顔だった。

500円× 100食× 20日間= 1,000,000円これが月の予想売り上げ(税込)だ。税抜きで約909,000円、そこから使用料500,000円を差し引き残り約400,000円で食材費、人件費、経費、光熱水費を捻出する。さらに設備投資が加わる。厨病機器、精算機器、食器や什器が必要になる。無理ゲー。「どうですか」と真顔で聞かれたので「無理です。受ける業者はいませんよ」と真顔で答えた。月の売上100万。少し考えればわかる話である。担当者は「企業さんのノウハウと努力で売り上げを伸ばしてください」と言った。宣伝禁止と相反していないか。冒頭の神奈川県庁舎食堂もそうだが、なぜこんな厳しい条件にするのだろうか。見方を変えればいいかげんな計画で民間を苦しめているように見える。

なぜ、学業が優秀だったはずの役所の人たちが、無茶なビジネスプランを爆誕させるのか。彼らは点で仕事を見ているからだと考えている。自分たちの考えた良い施設を自分たちの考える良いロケーションに作る。素晴らしいからここにはお客さんが来るに違いないと言う楽観に基づいた「点」でしか見ない。客を引っ張ってくる線(導線)、対象になる客がどれだけいるかという面を考えていないのだ。だから何回か視察を重ねて「雰囲気がいいねー」と業界マンのような感想を述べて、なぜ決まらないかわからない。

その原因はもっとシンプルで、彼らは自分たちの稼いだ金でビジネスをしていないからだ。全部、税金。自分たちで稼いで投資していないから、必死じゃないのだ。民間企業がレストランを作って厨房機器を置いて開業できないなんて事はありえない。投資に見合う回収がなければ担当者はクビだ。だからシビアに計算するし、採算の取れない事業は見送る。
「今回、懸念事項をある程度クリアしています」と担当者は自信ありげだった。話を聞いたら地獄だった。本来、業者負担となっている厨房機器はすでに設置済みだというのだ。予算が下りて稼働可能状態らしい。つまり新品の厨房機器を無駄にしていた。食堂規模にしてはオーバースペックな機器が入っていたから一千万円以上はかかっていると思う…。官公庁の予算の元は税金、血税である。「どうでしょう」と担当者は真顔だった。だーかーらー月額40万円で運営するのが無理なのー。無茶な計画のうえで高価な厨房機器を税金で買ってしまったというどうしようという話であった。結局、自分で稼いだ金じゃないから真剣さが足りない。これがすべてだと思う。

冒頭の神奈川県庁東庁舎のレストランの業者が7月24日に決定した。決まった会社には頑張ってほしい(僕の勤める会社も地元神奈川なので検討はしたが見送った)。

県庁東庁舎レストランの運営事業者が決定しました - 神奈川県ホームページ

神奈川県庁東庁舎レストラン設置・運営事業者再募集 - 神奈川県ホームページ

入札不調が続いていたため、賃料(テナント料)設定を下げたうえで、基本設備(防火シャッター及びこれに付随する関連設備、空調・換気設備)の設置費用を県負担に変更(上限額 防火シャッター等 1,440万円(税込)/空調・換気設備 3,000万円(税込)。防火シャッターと空調換気設備の合計4,440万円は県民負担なのだから、「よかったねー」と素直に言えない。県担当者の雑な仕事ぶりは責められるべきだろう。これも自分の稼いだ金で仕事をしていないことが根本にある。中小企業でこんな仕事をやったら速攻でクビだ。なお、先の某食堂案件については、税金の無駄遣いを指摘した意見書を担当者に送っておしまいにした。関わったらヤバいもんね。
(所要時間40分)

 

査定で死にかけた。

賞与支給から一ヶ月。車検と自宅リフォームで使い切り、パワプロの新作も買えず、そんな悲惨な記憶とともに賞与の存在を忘れかけていた今になって、部下からの「賞与の査定について質問があります」の声。なぜ今なの?さっぱり分からないが、話自体は「賞与の額が考えていた金額よりも少ない。査定に不満があります」というシンプルなものであった。評価するものとされるものが100パー満足する完璧な査定なんてものは存在しないけれど、僕は彼の査定に限定すればそこそこ自信があった。なぜなら部下氏は、対象期間におけるすべてのノルマが未達だったから。営業は、結果が明確に数字で出る仕事だ。その点から彼の評価で悩む要素はなく、すごく楽な査定だったのだ。「ノルマ未達」という僕の説明に対して、部下氏は「部長。そんなことはわかっています」と苛立ちを隠さなかった。ならノルマ達成してくれよと怒りのボルテージが上がってきたが、先日受講したアンガーマネジメント研修の内容を思い浮かべてやりすごした。「怒りを覚えたら過去のセイコウ体験を思い出しましょう」という講師の言葉どおりにあの夏の日の素晴らしいセイコウを思い出し一瞬だけスッキリしたのである。

彼は査定方法の変更を求めた。「現在の査定方法では私の潜在能力が計測できない」がその理由。「潜在能力あるの?」と口をついて出てしまいそうになる。部下氏は「潜在期待値」なるワンダーな概念を持ち出した。「本来の能力を発揮した際の最大値の結果」イコール「潜在期待値」という要素を査定に加味してほしいと求めた。つまり、査定に潜在期待値を乗じてもらいたいらしい。なるほどわかった。僕は元来優しい人間。その人の美しい面、ポジティブな点を見つめていたい。僕は彼から「職場の備品を壊さない」「欠勤しない」「定められた年休を消化する」という数少ないポジティブな要素をすくいあげ、甘く見積もった結果、潜在期待値は1だった。「50代後半」「無気力」「7年連続ノルマ未達」という現実をふまえたうえで、部下氏に潜在期待値(1)という魔法のふりかけをかけ、彼が本来の能力を発揮した世界線を想像した。現状と変わらない光景が脳裏に浮かんだ。きっつー。現状に潜在期待値(1)を乗じても変わらないのだ。この悲しい未来予想図を目の前にいる部下に伝えられようか。話題を変えた。賞与はまず会社の業績というものがあり、それに貢献した者の実績に応じて支給されるものであるため、査定に期待値は入れられないと伝えた。彼は「確かに私の期待値を加味したら賞与を支払う原資がなくなってしまいますよね」とポジティブに受け取っていた。きっつー。こういうときアンガーマネジメントの講師は6秒間数えましょうといっていた。怒りのピークは6秒でおさまるらしい。数えた。おさまらなかった。

彼は会社から不当な扱いを受けていると主張しだした。「定額減税は一人あたり4万円だと報道されていました」「ですね」「私も対象になります」「ですね」」「ところが私は定額減税を減らされていました。これはどういうことですか」言っている意味がわからないので沈黙していると「家族一人当たり4万円。しかし私は会社に1万円削られて3万円になっていました。明細にも記されているので証拠はあります。この件についてはすでに人事部に訴えを起こしています」と彼は続けた。被害妄想が強すぎ。人事部の対応を1か月待っていたらしい。定額減税4万円のうち住民税1万円分は6月に徴収されずに7月以降の給与から減税後の額が徴収されるという簡単な話では?つっても彼は「4万円と岸田総理が言ってました」と主張して聞くイヤーを持たず。イヤイヤでイライラしてきた。6秒間数えよう。1、2、3…「どうして」って3秒時点で部下が騒ぎはじめた。怒り消えねえ。

「どうして当社はそんな複雑なやり方をするのですか」「誤魔化すためですよね」「もっと社員にわかりやすく提示するべきではないですか」と詰め寄ってきた。「国が決めたこと」「人事に分かりやすいリーフレットがある」説明を尽くすも「こんなやり方…」と不満を隠さない。なぜ総理の代わりに謝罪を求められているのか。アイムソーリーヒゲソーリーなら何度でも言うけどさ。イライラで胸が苦しくなった。眩暈と頭痛。アンガーコントロール!深呼吸→過呼吸。6秒間カウント→話しかけられて頓挫。セイコウ体験→使い切った。この場を離れる→「最後まで話を聞いてください」。アンガーコントロール手法はまるで役に立たなかった。管理職になってからはこんなクソみたいなことばかりだ。命削っている。こんな上司殺査定地獄(ジョウシコロシアブラノジゴク)を僕は生きている。(所要時間25分)

会社上層部に丸一日マンマークで仕事を観察されて地獄だった。

 会社上層部四天王に一日マンマークされて死にかけた。嫌な予感はしていた。「社員ひとりひとりが経営者意識を持ってほしい。皆さんとは待遇と立場が違うだけで目指す方向性は一緒です」と激ヤバ発言を繰り返していた会社上層部が、方針転換したのだろうね、先日の朝礼で「我々役員も立場と待遇の違いを越えてイチ社員の仕事をすることが大事」と根本的に間違った現場第一主義発言をしていたからだ。社員ひとりひとり経営者意識発言の時点でヤバかったのが、更にダウングレードされた感が凄かった。会社上層部四天王は、金融機関からの出向を経て取締役になっているため、ウチの業界(食品業界)のことを知らない。仕事もわからなければ、コネクションもない。プライドが高いので知ろうともしない。NAI・NAI・60(60代)なのである。

 クソ現場第一主義の一環で、四天王四番目の男、通称四番(ヨンバン)が抜き打ちで僕に密着マークをすることになった。「私に見られて困ることでもあるのかな」と挑発してくるのでカードリーダーで奴のバーコード頭をスキャンしてやりたい衝動にかられた。マンマークをされるとは思ってはいなかったが覚悟を決めた。まずは朝のミニ・ミーティング。営業部メンバーが集まって進捗状況確認と情報共有をしてから、車で出発。なお、四番は背後霊のように無言でミーティングルームの壁に背を預けて立っていた。不気味だった。

午前中は短めの商談を二つ。二つとも新商品サンプルに対する意見のヒアリングと、次四半期の受注に向けてのセールスという通常の営業。後の顧客とは来春始める予定の店舗のプロポーザルの前提条件の不明な点の確認もあった。四番は無知なので無知がバレないようすべてわかっているんだ風の達観した表情を浮かべ、僕と顧客担当者の会話に参加せず、声を発する方向にいちいち顔を向けてうなずいていた。挨拶以外は無言。アホみたいだった。商談をふたつ終えると四番は「よしっ昼休みだ!休憩しよう」と一仕事終えた感を醸し出していた。午前11時半だった。イチ社員の昼休みは12時からである。仕事終わってないよ。午後の仕事に備えて、サンプルを補充するため倉庫に寄る必要があった。「えーっ!」と四番が不満そうな顔をするのを無視して倉庫へゴー。「ボーイスカウトの面倒を見るのはごめんだぜ!」とハリウッド映画みたいな台詞が口をついて出そうだ。つか、本社の近くにあった倉庫を、経費削減で廃止したのはおたくら上層部ですよ。倉庫での積み込み作業も「暑い。暑すぎる」「休憩しないとやっていられん」と文句ばかり言って役に立たないので「休んでいてください」といって休憩を取らせた。

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で、昼休み。「蕎麦屋でも行くか―」と四番がふざけたことを言っているのを無視して、コンビニで「かにパン」を購入して車中でランチを済ませた。四番はデミグラスハンバーグ弁当を買って食べていた。13時にアポがあったので車で移動。「まだ休憩時間は終わっていないぞー」と四番は声をあげていた。いちいちうるさいので「休んでいてください」と言った。午後の商談は2件。新商品サンプルを持ち込んでの提案営業、社会福祉法人本部で8月に実施されるプロポーザル入札の資料受領と打ち合わせ。四番は、午前中同様に薄気味悪い笑みをうかべて、音のする方向に向かって頷いていた。ガストの配達ネコロボットの方が百倍役に立つだろう。

15時。「本日の商談はこれで終わりです」と告げると「充実した一日だった」と四番が言う。「充実」の言葉の意味が僕の世代とは違うようだ。僕はそれを無視して「休んでいてください」と告げ、車中でパソコンを開いてメールを確認。客先と部下からのメールに対応。30分経過。四番は缶コーヒーを飲みながら「休憩、休憩」とつぶやいていた。事務作業が終わったことを告げると休憩していた四番が「休憩をしよう。さすがに働きすぎだ」と言う。それを無視して「市役所へ行って、各福祉課と産業振興課で情報収集をします」と告げた。どれだけ休めば気が済むのだろうか。市役所の駐車場に「休憩」しか言わなくなった四番に「休んでいてください」と言い残して単独でタスクをこなした。16時半。クソ暑いなか駐車場に戻ると、四番はキンキンに冷やした車中で昼寝をしていた。これが上層部の考えたイチ社員の仕事なのだろうか。なめている。

車で本社に戻る途中の車内で四番が「今日は私が来るから特別仕事を詰めたのだろう?」などとアホなことをいうので冷静に「抜き打ちで来られたから細工は出来ませんよ。アポ相手もいるわけですしね。あと、今日の仕事は平均よりやや楽でしたね。通常なら帰社してから提案書や見積書作成をしなければならないので。今日は部下が作成した提案書のチェックとチームの一日の活動を軽くチェックするだけですので、楽ですね」と返しておいた。四番の「どこかでお茶でもして帰ろう」という言葉を無視して会社に帰った。会社でのデスクワークも背後霊のように後ろに立って観察するつもりなのかと恐れていたが、四番とはその日はそれきりだった。

翌日朝、会社上層部が打ち合わせをしていた。四番は僕の仕事ぶりを四天王に報告していたようだ。夕方、四番がやってきて「キミの仕事ぶりを観察させてもらって、キミの仕事ぶりはまだまだ余裕があると報告しておいたよ。サボってはいないが休憩が多すぎる」と言い、次の役員会で問題になるかもしれないね、と警告してきた。嫌な予感は的中した。事実捏造。抜き打ちで仕事をチェックするという既成事実から、営業部長の僕の仕事ぶりに難癖をつけることが目的だったのだ。おそらく、僕が上げた営業部増員のための予算案が、経費削減を掲げる会社上層部の気に召さなかったのだろう。

まさかこんな地獄になるとは。でも僕には地獄の底辺会社員生活をサバイブしてきた経験と悪知恵があった。金融機関の天下り風情にやられてたまるか。「昨日の取締役の視察は終始ICレコーダーで録音させていただきました。私がサボっているか聴いてもらえばわかります。もちろん、私の『取締役は休んでいてください』もばっちり撮れていますよ。次回の幹部会議で参考資料として社長に提出させていただきますねー。いい経験になりましたー」と僕が言うと四番は絶句して死にかけていた。さすが四天王最弱の男だ。その後、会社上層部のなかで「四番がやられたようだな…」「奴は四天王の中でも最弱…」「営業部長に負けるとは上層部の面汚しよ…」というやり取りがなされたのか、僕は知りませーん。(所要時間35分)

ゆとり世代の元同僚のFIRE生活が僕のハートに火をつけました。

(12年前!のエピソード1)

2024年7月某日、猛烈な酷暑下の神奈川県某所。かつて「必要悪」を自称したゆとり世代の元同僚と再会した。会いたくはなかったが、暑さから逃げるように飛び込んだドトールコーヒーショップに並んだら前にいた。で、一緒にお茶をすることになった。ゆとり君は、二人掛けの小さなテーブルの上にハンカチを広げ、そのうえに鞄を置いた。なお、僕の鞄は足もとである。そしてゆとり君は「『カバンはハンカチの上に置きなさい』を知っていますか、課長。表層的な意味ではなくて相手の立場で物事を考えるということですよ」と言った。小さいテーブルの天板の面積の7割強が、ゆとり君鞄に占拠されていた。なぜ薄汚れた鞄の真横のクソ狭いスペースにアイスコーヒーを置かなければならないのか。この状態が、相手(僕)のことを考えているように見えるらしい。重症だ。「立場」の発音がGODIVAっぽいのも気になった。なお、些末だが僕の役職は部長である。

仕事も残っていたし、テーブルは鞄に占拠されて狭えし、早く会社へ戻ろうとアイスコーヒーを速攻で吸っていると、ゆとり君が「課長、俺、FIREしたんですよ」と声をかけてきた。「仕事してないんだ」と話を合わせると「働くことが前提になっている社会に疑問を持ちまして…」などと言う。嫌な予感がビンビンした。帰ろうという意思とは逆に「今、何しているの?」と口が滑ってしまった。するとゆとり君は、はーっ、とワザとらしいため息をつき、「Sorry…」と謝ってから「日本語は論理的な構造が曖昧で嫌になりますね」と言った。こいつは何を言っているんだ。戸惑う僕をよそに彼は「『今』を現時点、『何』を状況とするなら『俺は課長とお茶をしている』が答えになります」と言った。アホだ。

「帰るわ」「もう少し話をしましょうよ。感動の再会じゃないですか」「そんなに日本語の曖昧さが嫌なら英語で質問するよ。『What do you do?』これなら明確だろ」。ゆとり君は悲しそうな表情を浮かべた。まさかとは思いますがこんな簡単なフレーズの意味がわからないのか。おもろー!からかってやろう!と思っていると奥様の言葉が心の中にリフレインした。「キミは相手が弱いところを見せるとストーカーのように執拗に追い続けて攻撃するよね。それキモイよ」。確かによくない傾向、性癖だ。一瞬で反省した僕は「お仕事は?」と日本語訳を伝えた。優しい。ゆとり君は「外資です」と答えた。うん。その回答、微妙にずれているね。何をしているか全然伝わらない。相手の立場になって考えるとは何だったのか。僕は小さなテーブルを占めるハンカチと鞄を見つめて心を整えた。

いやちょっと待て。「あれ。FIREしたって言っていたよね?」「そうなんですよ。貯蓄もないのにFIREしたから大変なんですよ。火の車ですよ」まさか…ゆとり君、FIREの意味を分かっていない?もしかして、ただの無職?まさか炎のシュレンのFIREなのか。いやどちらもFIREではあるけれども。疑念を確かめるべく「ドアーズの『Light My Fire』のFIREか…」と僕が言うと、「課長…またロックですか。相変わらずですね。怒らないでください。これは褒め言葉ですからね」とゆとり君。

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この流れでどう褒め言葉と受け取ればいいのだろうか。テーブルは狭く、僕の鞄は床の上だった。ホメオパシーでもやってろよ。

「じゃあ帰るよ」これ以上接触するとアホが伝染するので僕は帰ることにした。別れ際に名刺を渡した。「課長、うまくやりましたね。部長になったのですね」「たまたま、運に恵まれただけだよ」謙遜しておいた。するとゆとり君は「課長世代は、実力に関係なく、たまたまの運だけで行けましたけど、俺ら世代は実力しか認められないから苦しいですよ」と言った。謙遜がわかなかったみたいだ。相手の知的レベルに合わせられなかった僕が間違っていた。きっつー。この時点で再会して10分。体力と精神力の消耗が激しい。つかお前は今、何をしているんだ?「僕とキミは、同じ時代を生きているから同じだろう。今は誰でも実力と結果がないと厳しいよ」「いや。課長の属する団塊ジュニア世代と俺より下のZ世代は勢いでやってしまいますからね。俺の世代とは違いますよ」話がかみ合わない。ゆとり世代の、競争のない、叱らない教育がこんな怪物を生み、小さなテーブルを鞄で違法占拠するのだ。早く脱出しなければ。さもなければ死ぬ。

「まあFIRE頑張ってよ。よくわからないけど。じゃあ今日はこれで」「実は、息子が12歳になりました」僕は席を立つのをやめてしまう。「そっか」あれから12年か。アホな僕らは何も変わっていないのに。「それでよりを戻して再婚することになりました」「良かったじゃないか」そういえばゆとり君の離婚をすっかり忘れていた。どうでもいいことだから忘れていたけど、実にめでたいことだ。「何がいいんですか?」「えっ」話が見えない。「別れた妻と再婚なんてありえませんよ。新しい彼女と喧嘩して別れていたのですけど、このたびめでたくヨリを戻して再婚することになりましたー。だから養育費はこれからも払わなければいけないのです。いいことなんてありませんよ」知らねーよ。《新しい家庭を築いても養育費免除にならないのはおかしい。一生、幸せになれない》と嘆くアホを見つめながら、こんなことをしているくらいなら、大嫌いな仕事をしていた方がマシだと心の底から思っていた。勘弁してくれ。脳が破壊されそうだ。

「課長の会社は人手不足ですか?」ゆとり君が訊いてきた。嘘をいっても仕方ないので「世間一般の企業と一緒で不足しているよ」と答えた。「紹介してくれませんか」「誰を」「課長の目の前にいる優秀な元営業マンです」おかしいな。僕の目の前にいるのは、一緒に働いていたときノルマを一度も達成したことがなく、素行が悪く、すでに30代後半にはいって若さも可能性もない中年男性だけである。こんな不良品を会社に持って帰ったら会社での立場は危うくなるうえ、最悪、会社自体が木っ端みじんに吹っ飛ぶかもしれない。一瞬で断ることを決めた。「今何をしているのか答えられない人は紹介できない」「経歴はいえませんが、実力と実績で評価してください」ないよ。実力と実績、両方とも。「うーん無理だ」「ですよね。課長には迷惑はおかけしません」おっ。必要悪を自称していたゆとり君も1ミリくらいは成長したみたいだ。1ミリでもマンモスうれぴーよ。

ここで僕が「じゃあ今日はこれで」と話を打ち切ろうとするとゆとり君は執拗に食い下がってきた。「ですから採用担当を紹介してください。課長のような名ばかり管理職ではなく、しっかりとした人事権のある人を紹介していただけたら、あとは自分でやりますから」名ばかり管理職!長年会社員をやってきたけれども名ばかり管理職という蔑称で呼ばれたのははじめてであった。つかれた。残機ゼロ。ヒットポイント切れ。『へんじがないまるでしかばねのようだ』状態。かつて必要悪を自称した男が、ただの頭の悪い男になっていた。「じゃあ追って連絡するから」僕は嘘をついて席を立った。ゆとり君の別れ際の言葉をここに記してこのエピソードを締めさせていただく。「都知事選の結果見ましたか?石丸さん凄かったですね。いつか俺も、彼みたいに選挙に出馬して自己責任のうえで自分を表現してみたいです」(所要時間45分)