Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

上司が妙なプレイを強要してきて困ってます(34歳会社員)


 厄介な上司がいる。嫌いな人ではないので、よく飲みに行くのだけれどひとつだけ困った癖がある。本人に悪気がなく、大真面目なので対応に困ってしまう。毅然とした態度で「結構です」ときっぱりと言ってやればいいのだろうが、彼が悲しそうな顔をするのは見たくないので、その一言が言えずにいる。


 僕はほぼ毎晩飲みにいく。たいていは安居酒屋だ。そこで酔っ払ってニタニタしたり、バイトのお姉ちゃんのオッパイを眺めながら「『幻魔大戦』逆さまに読むとなーんだ?」なんて言ってからかったりして過ごすのが日課だ。そうやって一日一日をなんとか乗り越えている。


 上司や同僚が一緒でも居酒屋での行動は変わらない。僕にはそれしかない。厄介な彼は、そんな弛緩しきっている僕を掴まえては、「目が死んでいる」「勝負が出来ない顔だ」と罵る。そして「オマエのためになる本を貸してやろう」と言い残して終電に飛び乗り、翌日、本を持ってくる。迷惑な話だ。


 先月は吉川英治の「三国志」を持ってきた。居酒屋のカウンター席で、何回も読んでます、光栄のゲームで何度も中国全土を手中に収めています、横山光輝の漫画だって漫画喫茶で読破しました、と必死に固辞したにもかかわらず、「俺の目は騙せない」と言って聞く耳を持たなかった。そういうとき、彼の目は決まってどろんと澱んでいる。僕は文庫本の山とイイ表情をしている彼の顔を交互にみて溜息をついた。


 先週、広島・岡山への出張から帰ってきたときも、彼に誘われて飲みに行った。仕事の話をしながらビールをしこたま飲んだ。彼が「仕事を成功させるカギはその土地の歴史的背景を知ることにあるな、中国地方、戦国時代、毛利か…」と呟いているのを無視して、ビールを飲み続けた。翌朝、彼はまた本を持ってきた。


 今日は休日出勤だった。誰もいない静かなオフィス。袖机の上に手付かずに置いてある本を見て、僕は、やはり溜息をついてしまった。彼の持ってきた本。「大学受験シリーズ 読むだけ日本史」 この妙な上司プレイ、いつまで続くのだろうか。