Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

膨らんできちゃった

 頚動脈で遭難した。地図を引っ張り出してきて神奈川県を見つけ、隣接する東京都、山梨県、静岡県との県境と東京湾、相模湾に面した海岸線に赤鉛筆を走らせる。相模湾の緩いループをすすしゅと、横浜川崎港湾地域の細かい凹凸は適当にギザギザと。リンクを繋ぎ終えると赤い輪郭をした犬が地図上に浮き上がる。川崎市麻生区が耳、三浦半島が前足、真鶴湯河原が後ろ脚、江ノ島がオッパイ。JR東海道線の横浜戸塚間あたりが頸動脈。この区間は長い。時間にして10分以上。この区間での尿意はちょっとした悲劇になる。昨夜。僕を飲み込んだ終電が頸動脈に差し掛かったころ。僕は遭難した。酔っぱらって懸垂選手のように両手で吊革にぶら下がり車輌がレールの継ぎ目を指揮者に奏でるガタントトというビートに合わせ腰を前後にグラインドさせていた僕に想定外の異変。お酒を飲んで血の巡りが良くなったせいだろうか。猛烈な痒み。我慢できない類の痒み。足の裏を蚊に刺されたときに匹敵する痒み。これが手足であったならシャッシャッと掻いて、事件の起きた素肌をギャツビーフェイシャルペーパーエボリューションターボタイプDでカラダを夏にしてカゲキにさあ行こうするだけのこと。これは違った。痒い場所が化粧品風にいうとピネス。僕がPHSや携帯を新調するたびに「宇宙船DoCoMo号発進!月の裏側を探検するじょ!ワンダバダバダバワンダバダバダバ」と歌いながらひとりになった部屋で静かにちんぐり返しを決め撮影する場所。P to the N to the S to the ペニス。ミギー・コーガン。


 きれいごとはやめよう。そこは右キンタマの裏。向かって左キンタマの奥。僕だって長年の経験から対応策は考えてある。そなえよ つねに。半年で辞めてしまったボーイスカウトで初めに教わったこと。一張羅のケミカルウォッシュジーンズ。裾は流行りのロールアップ。右ポケットには予め穴があけてある。痒いときにはこの魔法のトンネルから侵入し指先で婿入り前のタマキンにキズあとが残らないよう、柔らかなタッチ、細かなリズム、シャクティーパッドでポリポリと掻きむしるだけ。人目のない夜道ならマジそれ超完璧。だが懸垂姿勢でムンズムズキンタマを中心に身をよじらせている僕の目前、JR東海道線主力車両サハ形中央部の横列シート七人掛けには、ananセックス特集を読み脳細胞すべてがペニスとセックスで充満していると思しきエロカワイイギャルが七人座っていた。たぶん全員ピーチジョンの見せたいんだか隠したいんだかわからない派手なブラ着用。僕の両隣はフケオッサンとハゲオッサン。発情した14の視線が僕の股間に集中するのは仕方ないだろう。股間に熱視線を感じた。股間に黒紙をおいたら発火したはずだ。キンタマが鉄板の上で焼かれるイメージ。痒みを軽減するために膝をまげ股間を宙に開いた。「コマネチ」に近い姿勢。男性ホルモンの放出が強まりギャルの視線は強くなる。痒みは収まらない。いや悪化している。七人のギャルのなかに超能力ギャルがいるのではないだろうか。発情したサイコキネシスが僕の股間に向かって暴走しているのではないだろうか。


 痒い。とにかく痒い。キンタマ痒い。痒い痒い痒い。キンタマ痒い。痒い痒い痒い。ライト・キンタマ痒い。痒い痒い痒い。らめえええぇぇぇえええ。声が出ちゃうぅぅぅぅぅうう。痒みが我慢の限界に達し頚動脈がぶち切れるレヴェルに達したのでカバンで股間を隠し、中にあるiPodを操作するふりをしながら股間をシコシコ掻いた。正面のギャルが僕の行動の変化に気付いた。僕はおかしなことはしていない。大声を出してもらっても構わない。膨らんでいない。出るところにいって出したって構わない。一度ボーダーを超えてしまうとそれはボーダーではなくなる。僕は心置きなく掻いた。痒みが治まるまで掻き続けた。掻いて掻いてカイタ。電車から降り、駅の階段に右足をかけたとき数時間前まで飲んでいた年下の友人が「年取って一人ぽっちだと寂しいじゃないですか」と話していたのを思い出した。足を止めた。死ぬまでたった一人、誰もいない部屋で携帯を変えるたびにちんぐり返しをするのは少し寂しい気がした。寂しさが膨らんできた。だから信じよう。寂しさを振り払うために。信じよう。明日を。未来を。どんなに僕がボンクラでも「フミコ!あなたイカ臭くてイカれてて最高よ」そういって毎日熱いキッスをしてくれるような、キンタマの裏が痒いときそっと優しく掻いてくれるような存在に出会える明日の到来を僕は信じる。それから僕は、寂しさを蹴り払うように、左足を上げた。


※今日の日記で100日目です。今までどうもありがとう。