Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

まごころを、キミに

 お気に入りの真心ブラザーズがインナーイヤフォンの片方から流れ出すとぷるぷるとしてキミはいつも嬉しそう。キミに宣言されなくても僕にはわかっている。キミのフェイバリットソングが「ポプラ」だって。ポプラ。シングルカットもされていない地味な、だけど穏やかな気分にしてくれるいい曲。酷い二日酔いでデスラー総統みたいな青い顔をした僕は、「飛鳥了って男なのかな?女なのかな?」「水着着なくなった優香に意味ないよね」「上がってんの?下がってんの?オッエエオエエッーッ」「今月のキャンキャンの表紙、どれがエビちゃんなの?」と適当な軽口を叩いて横目で呆れているキミの機嫌を伺いながらパパパッとドラマに出てくる天才外科医かマジシャンみたいな手馴れた手付きを華麗に披露して、月賦で買ったiPodnano8ギガ(色:ブラザーブラック)を操り「ポプラ」を探す。


 電源オン。クリックホイール。シュり、クリッ。お目当て発見。クリッ。クリッ。さあ僕らの愛の歌よ、今ふたたび僕らの愛を温めよ。讃えよ愛をアーッ。ジュテーム・ノア・モン・プリュー。一秒の沈黙を経て僕の右耳からイントロが流れ出す。「さよなら〜僕ら〜」もう一方のイヤフォンはキミのもの。こうやって僕らは音楽を分かち合う。形ない時間を共有している証拠が欲しいから。僕らはいつもこんなスタイル。なんか高校生みたいねってキミが言って、「構わないさ」と僕が返すお決まりのコース。


 半分にした音楽を聞きながら濃い珈琲をすすり二日酔いを薄める。膨れっ面のキミは丸っこくてなんだかオッパイみたい。オッパイみたいなキミを初めて突っついたのはいつだったろう。初めて僕が先端でキミを突き、キミが声もなく溢れたのはいつだったのだろう。不誠実な僕は思い出せなくて申し訳ない気持ちになる。キミが沈黙を続けたまま僕を凝視するので、なんだか僕は地球に墜ちてきたエイリアンにでもなったような気分になる。僕らの間を流れる沈黙を真心ブラザーズが優しく埋めていく。「いついつまでも仲良くしよう そうまだ僕ら始まったばかり 」


 夏が始まったころ、日が沈むたびにアルコールに沈澱していた僕を心配して、ねぇもうお酒やめなさいよ身体を壊すわ、あなたのいなくなった朝なんてアタシはイヤよとキミは言ってくれた。僕は「構わないさ。僕は大丈夫だよ。ロックスターは27才で死ぬけど僕はとっくにそんなデッドラインは超えている。だから大丈夫だよ。心配しなくていいさ」そういって笑い飛ばした。それで怒っているのだ。無言の、そして強力な意思表示。


 今朝、晩夏のダイニング。僕はグンゼのブリーフ「デオグリーン」だけを纏い、キミは裸。透明なベールを纏ったヌード。僕らの気まずい沈黙を真心ブラザーズが埋めていく。不意に僕の気持ちがキミに届いてない気がしてきて、石が池に投げ込まれ幾重もの円い紋が拡がっていくように僕の心のなかで不安が大きくなっていった。あと少しで「ポプラ」は終わる。キミの無言、真心ブラザーズが埋めてくれていた沈黙に僕は押し潰されてしまうだろう。だから僕はキミへの想いを叫ぶ。キミの沈黙のカーテンを引き裂くようにして。キミの好きな真心ブラザーズの歌に乗せて、キミに届け、僕の想い。


 「僕はキミが好きだ!お菓子だったら食べちゃいたいくらい!僕のカワイイ子猫ちゃん!」僕は寝汗で湿っぽくなっているブリーフ/デオグリーンを脱ぎ捨て身も心も裸になり、獣のようにキミに襲いかかった。キミは僕の想いに応じるように溢れた。溢れながらキミはこう囁いた。アナタは最高にイカれてる、クレイジーでイカれてる、もっとイカれてアタシをイカせて、生のままアタシを貫いてぐちゃぐちゃにして、そのたびにアタシは死んで生まれ変わるの、そしてまたアナタに出会う、それって最高に素敵でしょ…。


 「よーしパパ、もっと狂っちゃうぞー。俺は人間をやめるぞ!徐々にーっ!」素っ裸になった僕はキミに醤油をかけてかき混ぜ、ご飯にぶっかけて食べた。食べ終えると僕は部屋の窓とカーテンを開けて真っ白な夏の名残を全身で浴び、それから会社へ向けてママチャリを走らせた。このままじゃ遅刻する!スピード!もっともっとはやいスピード!真っ裸で卵ご飯、サイコー。