Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

私の異常なお見合い または私は如何にして心のタガを外しアナルパールの話をお見合いでするようになったか


 正月に話を持ちかけられて以来、「無理」「駄目」「嫌」「眠い」「多忙」といって断り続け、一時は逃げ切ったと思っていたのだが、母の執念たるや侮りがたく、「私の顔を立てろ」「誰が産んだと思ってる?」「金返せ」「親不孝者」という脅迫めいたメールを昼はスナック、夜はデニーズから、昼夜問わずドコモへ執拗に送り続けてくるものだから、日を追うごとに僕の精神は衰弱し、判断力は失われ、酒に逃げ、泥酔し、うっかり一度だけ「うるせーわかった」と返事をしてしまい、こないだの日曜はお見合い。相手は母の友人の25歳の娘さんで、漫画の格好をするのが趣味、らしい。コスプレ?他に情報はないのかと訊ねると母はふふと不穏な笑みを浮かべ、一枚の写真を一瞬見せ「あとは当日のお楽しみ」などとふざけたことを言うので眠れない夜が始まる。


 で、当日。エクセレントなことに母と母の友人とその娘は待ち合わせの時間に待ち合わせ場所の喫茶店に到着している。そのとき僕がなにをしていたかといえば、弱い己に克つために駅のホームで缶ビールを飲んでいた。一本、二本。スーパードライでキレを取り戻した僕は軽やかな足取りで喫茶店に向かい三人に「チャオ!」。ウサちゃんピース。「随分と明るいお兄さんね、ホホホホホホホ!」「ウチのはいつもこんな感じなのよ、ホホホホホホホホ!」母ーズは「このあとは若い二人で!」とハモると、ホホホホホ!と奇声をあげながら回転ドアからくるくる回りながら出て行った。うわー社会の迷惑。つるんで堂本光一「SHOCK」を観に行くだけはあって若者に負けないパワーがあるっつーか。持ってるものが違うっつーか。失うものがないっつーか。


 で、話すことが思い浮かばないので時間を潰すために映画を見にいき、ビールを飲んで速攻で寝て、映画中盤で起床し、劇場を出る。現実に戻ると目の前に初対面の若い女性がいて、僕は酔っ払ったオッサンで、「仕方ないから飯でも食いますか?」というと、呆れて帰ると思いきや「はい」とか言って付いて来るので、たまたま目に入った小汚い中華料理屋に入った。ちゃぶ台みたいな席につき、アサヒと書かれたグラスに入った水を持ってきた店の婆に「松コース」を注文。僕は紳士なので相手に了解を得てから大ジョッキを頼む。カラカラに乾いた喉をビールで潤していると娘が何か言いたがっているので僕は「何でしょう?」と促す。少しためらったあとで「なんていうか写真と印象が違いますね。すごく落ち着いているというか」などとおかしなことを言うので「え?どういう意味?」とうろたえる。「いやお母様から頂いた写真と印象が…かなり…」「ちょ、写真って聞いてないよ。写真ー?」「この写真なんですけど…」確かに僕の写真だった。ただし平成7年頃。中ジョッキ追加。「申し訳ないけれどこれたぶん15年近く前の写真だよー。うわー若い。自分で言うのもなんだけど、こりゃ詐欺だわー詐欺」「それは別にいいんです。人はみんな歳を取って死ぬんですから…戦国時代は死と隣り合わせだったんですよ…」はい?酔いが回り始める。「わたしは戦国時代と三国志が好きなんですう」「ああそれはいい趣味っすね」「特に西軍。石田三成萌え」「東軍は駄目なのですか?」「東軍、家康以外に誰がいるかよく知りません!でも東軍は憎い!ムカムッカー!」「い、一番好きな武将は?」「断然、島左近片倉小十郎景綱ですう」机をドーン!と叩く娘。揺れるビール。ぼ、暴力反対!訊くところによると片倉家居城の白石城(?)には何度か写真を撮りに行ったことがあるらしい。「最近はカゲツナと一緒に出かけるのがマイブームなんですう」「犬ですか?」「面白い人ですね。デジカメの名前ですよう」デジカメ=カゲツナ。わかるかよ。中ジョッキ追加。


 「あまりこういうことを言うのはオッサンみたいで好きではないのですが…」「何でしょう」「片倉小十郎は東軍なのですが」「細かいところにこだわる人ですか?」「いえ。歴史好きならKOEIのゲームとかやるのですか?」「仕事から帰ると無双をやりますう。嫌いな人の顔を思い浮かべながら雑魚をぶった斬るのラヴう」「いい趣味をしてますね…」「よく言われますう。無双やらないのですか?ゲーム好きだと伺っているのですが」「無双はガンダム無双だけですね。ガンダムはいいですよ。ガンダムは裏切らない」「わたしはガンダムはあんまり…。強いてあげるなら上杉謙信を演じたガクトが主題歌を担当していたゼータの映画くらいしか見たことありません」「えーーー!もったいない!モビルスーツみていると造形美にうっとりとするときがありますよ。やべ酔っ払った」「たとえばどういったものが?」「僕の好きなモビルスーツにキュべレイというものがありましてね…」「キター!キュベレイはなんとなく知ってます」「まあ、これはエルメスの後継機だからモビルアーマーという説もあるのですがそれは置いておいてですね、何が素晴らしいかというとその造形です」「ガクブル…どう素晴らしいのですか?」「宇宙に咲くアナルパールとでもいえばいいのかな…。アナルパールとイチジク浣腸が恋をして産まれた子供という表現のほうが適切かな…」「トイレ行ってきますう」「どうぞどうぞ!大?小?」返事は返ってこなかった。口のなかに入れたフカヒレはなんだか小学生のときふざけて食べた輪ゴムの味がした。中ジョッキ追加…中ジョッキ追加…リフレイン。


 連絡先を交換をして僕のお見合いはビールのほろ苦い味と共に終わった。疲れきって部屋に戻りズボンを脱ぐと、もしもの情事に及んだときに備えての新品のトランクスが目に入りなんだかとても虚しくなった。今、僕は母からの追跡調査から逃げることに全精力を費やしている。