Everything you've ever Dreamed

ただの日記です。それ以上でもそれ以下でもありません。

天空の城キャバクラ「父さん、アフターは本当にあったんだ!」


 「鬼は外、福は内」と一心不乱に念じながら豆を撒けば運気も上がるのではないか、そう考えた僕が節分の夜に帰宅するや否や、休みの日に買ってちゃぶ台の上に置いておいた「豆」を手に取ってみると、「豆」であるはずのものがなぜか「タマゴボーロ」。間違えた。スーパーまで歩いていくときに飲んだカップ酒。あれが原因。すべてカップ酒のせい。切れかかり、チカチカと点滅する蛍光灯を仰ぎ、「天は我を見放した」と古い北大路欣也の物真似をしたあとで、まあやらないよりはやったほうがいいだろうと、タマゴボーロを豆と見立て、僕は「鬼は外、福は内」と隣人に聞こえないように囁きながら、タマゴボーロを撒いた。二・三粒撒いたところで、タマゴボーロを食べ始めると、懐かしい味が口いっぱいに拡がって、懐かしいなあ、懐かしいなあ、と言いながら食べるのをやめられなくなり、気がつくと右手に残るは空の袋。


 中途半端な節分ナイトを送ったのが仇となったのだろうか、バレンタイン・デーになってもメールの一通も送られてこない。嘘。キャバクラのギャルだけはメールをくれた。「目の前を闊歩している生き物は見た目こそガールだが、精神はガールではない。もののけだ。本物のガールはキャバクラにいる。さあ行かん。男の楽園、黄金郷、天空の城、ザ・キャバクラへ。いざキャバクラ」。誰もいない部屋で確信し、うりゃーと雄叫びを上げた僕は、酒を飲んで気合を入れてから、23時過ぎのキャバクラへ向かった。バレンタイン・イベントということで店内は慌しく、ギャルたちの入れ替わりは激しかった。飲み物いただいていいですか?と媚びた5分後には、すみませーん!と席を立つ始末。あまりの退屈な酒に、僕は一時間で店を後にする。


 胸元のぱっくり開いたテカテカしたエロティックなドレスをお召しになられたギャルが3人ほど見送ってくれ、僕にチョコレートを渡してくれた。僕だけのために買っておいてくれたチョコレート。これはイケる。「このあと、どう?アフターとか?ざるそばとか食べてさ、その後はHAHAHA!」と3人のなかで一番オッパイが大きなギャルに言うと、体験入店なのでアフターはなしだという。「そっか仕方ないね、じゃ僕は彼女のところに行くよ、またー」と夜の街へ向かう僕の暗い背中にギャルの三重奏。「ありがとうございましたー」「またお願いしまーす」「また来てねー」。


 そのまま部屋には帰らずに漫画喫茶に行って「のたり松太郎」を読んで、寝て、起きて、朝3時に外へ出ると、いかにも財産を持ち、暴力も強そうな感じのオッサンと僕のアフターを拒否したギャルが焼肉屋から出てきたところに遭遇。電柱にむかい、腕をつき、オエオエと泥酔したフリをしてその場をやり過ごしてから、僕は部屋へ帰り、冷たい布団にもぐった。僕の体温で暖かくなった布団のなかで目覚めた僕は、キャバクラで貰ったGODIVAチョコを齧った。すこし、苦かった。